かくて世界は普遍する｜リアクション

かくて世界は普遍する

寝子島タブレット　春のオカルト特集　寝子暦1369年4月某日刊行

１.或る読者からの投稿
　『寝子島には人間に化ける悪戯カナリアがいます！　昨今の噂は全部、そのカナリアの仕業でした！　寝子タブの皆さんに、是非ともその正体を解き明かしてもらいたいです！　ペンネーム.ともとも』

　全てはこの投稿から始まった。昨今の寝子島の噂や都市伝説の類いは多種多様でありそれは何かしらの意図があるでのはないかと編集部では考えていた。
　そして、我々取材班はその真相を確かめるべく調査を開始したのである。
　以下にその写真を掲載しておく。

　その記事にはいくつかの写真が添えられていた。多くの写真は加工してあるのか、それとも単なる撮影ミスなのかは不明ではあるが不鮮明であったり、ネガとポジが反転したかのように写真としてはあまり使えないようなものが掲載されている。それでもよく見ると、白衣を着た誰かが半人半鳥のような姿になっているようにも見える。さらに目線には黒線が引いてあり、胡散臭さが倍増していた。

　これが寝子島タブレットの特集号のトップ記事であった。

　時は遡り、ある日の夕方。
　人通りの少ない寝子島高校近くの路地に影が三つ伸びている。
　「やるなら完璧にやりたいからな」
　桜井ラッセルが普段は三つ編みにしている髪をゆったりとした一つ結びにしながら呟く。
　伊達眼鏡に白衣と完全に変装するつもりである。
　「こうしたらもっと素敵だと思うの！」
　と、ラッセルの前髪をいぢりだしたのは響タルト。
　面白くて仕方がないといった風の悪戯っ子の笑みを口元に浮かべている。

　「準備いいか？」
　桜崎巴がカメラのレンズ越しにラッセルを納める。今時のデジタルカメラではなく、フィルム式カメラであるあたり巴のこだわりを感じた。
　「ああ、よろしく頼む」
　ラッセルはタルトが自分から離れるのを確認して、小さな鍵を強く握りしめる。
　ろっこんが発動し、ラッセルの体は次第に変化していく。

　カシャ、カシャ、カシャ。

　静かにシャッターを切る音だけが響く。
　肌は黄色の羽毛に包まれ、広げた両腕は肩甲骨から生えた翼に覆われる、体のサイズはどんどん縮小されていき。
　そして、ラッセルの面影は失われていく。

　カシャリ。
　
　シャッターの音が止むとそこには黄色の翼をゆっくりとはためかせながら滞空するカナリアの姿があった。

　「いい感じに撮らせてもらったぜ」
　巴はカナリアに化けたラッセルに向け、サムズアップをする。
　「ソレ、寝子タブに投稿するんでしょー。　イラストつける？」
　タルトはメモ帳にラッセルの変身課程を簡単に解説するラフスケッチを描いて巴に見せる。
　「あんた、絵上手いんだな。いや、今はいい。ちょっとあたしに考えがあるんだ」
　そう答えると巴は切れ長の目を光らせて今後の行動へ思索を巡らせる。
　「そういえば」
　と、ろっこんを解除したラッセルが口を開く。
　「『化けカナリア』はこんなもんでいいとして、『ハートスッポン』の告白のほうはどうすんだ？」
　「どうする……と言っても、なるようになるしかないんじゃないかな？」
　人差し指を口元に寄せて思案顔になるタルト。
　「要するにサクラを用意するかってことだろ。ラッセルが美和せんせに告るよりかは、サクラの誰かに告るほうがスムーズだろうな」
　巴が提案する。
　「そりゃそうだけどぉ。いっそ男の子同士でも僕としてはアリなんだけど……」
　なぜかタルトが変な方向へと話をシフトさせる。
　「最悪、タルトがサクラを引き受けりゃいいだろ。あたしよか向いてるだろ」
　「それもそうだな」
　と、巴の提案にラッセルも追随し。
　「僕？　いや、そりゃ今フリーだけど。もしもの場合だよね？　そのときはＯＫするよ……じゃないと記事にならないし」
　矛先を向けられたタルトは一瞬だけ虚を突かれたように呆けて、パチクリさせた瞳の上を長いまつ毛が揺れていた。

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