かくて世界は普遍する｜リアクション

かくて世界は普遍する

４.シーサイドタウンの都市伝説

　猫鳴館のとある部屋。
　そこには１人の寝子島タブレットの愛読者がいた。。
　「おー、寝子タブすごいデース！　この寝子島には東洋の神秘に溢れています！」
　碧眼を大きくしながら寝子タブを食い入るように読み耽っているのはレイラ・トンプソン、アメリカからの留学生である。ストレオタイプの日本像を持っているらしく、そういう意味でも寝子タブの理想的な読者とも言える。『勝利の赤いパンツ』の記事にチェックを入れながらレイラの金髪が揺れた。
　「赤、レッドね！　この『レッド・ぱんつ・オブ・ビクトリー』こそ私の求めていたニンジャパワーの源ね！」
　時代劇でサムライが赤い褌を履いていることも同じ理由だとレイラの中での間違った日本像がさらに形成されていく。
　「まずは準備ですわね！　ええっと、確か『ニャマゾン』に……」
　さっそくレイラはネット通販大手の『ニャマゾン』でポチっと赤のセクシーランジェリーを一式注文する。さらに『この商品を購入した方はこちらも購入しています』という広告のせいなのか、それとも彼女の趣味のせいなのか、コスプレグッズのような際どいクノイチコスチュームまで注文する。
　「これらが届いた時、私のレジェンドが始まるのですわ！」
　恍惚の笑みを浮かべながら自身を抱きしめるポーズを取るレイラ。発言そのものやおんぼろの猫鳴館であることさえ気にしなければ似合っていたのだが……。
　
　数日後。
　レイラは『ニャマゾン』から届いたダンボールを開封して早速着替える。赤のランジェリーは紐のように布面積が小さく煽情的で、クノイチコスチュームは上半身は胸元を強調したデザインで網目や切れ込みが目立ち、下半身はミニスカートで非常にいろいろ危ういものであった。
　「フフフ…今宵の『レッド・ぱんつ・オブ・ビクトリー』は血に飢えておる……。いざ、参らん！」
　ビシっと猫鳴館の低い天井を指差し一通りのレイラの中におけるニンジャポーズを決めると、シーサイドタウンへと向けて彼女は走り出した。

　同日。シーサイドタウン、水族館。
　水口たち取材班一行が『ハートスッポン』を探しにやってきていた。家族連れもいる中で学生たちが固まって動いているのはオリエンテーションの一環のようにみえてどこか微笑ましく見える。
　「『ハートスッポン』って男性同士が見つけて告白してもやっぱり結ばれちゃったりするのかなぁ」
　どことなく口元をだらしなくしながら妄想を口にするのは四月。どうやら脳内では編集長×水口（寝子タブ編集長かけることの水口）なんていうカップリングが形成されつつあるらしい。
　「その場合はやっぱり編集長の鬼畜攻めなの！　あ、でも水口さんのヘタレ攻めというのもあり？」
　などと、タルトは多くの人間にはよくわからないことを言って四月とトークが盛り上がりつつあった。
　「思ったより亀の種類が多いわね、えっとあっちのはガラパゴスリクガメでこっちのはええっと……？」
　「カメさんもかわいいー」
　「『ハートスッポン』を探すとはいってもなかなか亀以外の動物の数が多いですなぁ。」
　美和とふわり、そして水口がなんだかんだで水族館を楽しみながら、爬虫類コーナーの一角でハート模様のスッポンを探している。
　その一方で文月や天野といった男性陣は我関せずと魚を見つめていたりする。
　巴はラッセルが隠れている場所を確認してカメラを準備し、脳内で段取りを組み立てる。
　そんな穏やかな雰囲気に治が微笑みを零した直後、その声は館内に響いた。