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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
妖怪トレペちぎりの謎
ゴミ袋を集積所に運ぶマウル・赤城・スティックと、掃除用具を片手にした森 蓮がすれ違う。
「お疲れさん」
「お疲れさまです！」
蓮はマウルが今しがた出てきた男子トイレをのぞき込み、猯利の姿を確認するとおはようございます、と声をかけた。掃除に集中したい亜魚隈 猯利はちらりと蓮を見て、ああ、とだけ答える。そしてまた自分だけの作業に戻って行った。
「ここはお二人が掃除中ですから、私は別校舎の方へ行きましょう」
南校舎の男子トイレへ足を踏み入れると、そこには昨日と同じ惨状が広がっていた。さすがの蓮も、またか、と思う。トレペちぎり事件以降の汚れ具合は目に余るものがあった。
「何とかならないでしょうか。事件以後変わった点……」
短く刈り込んだ頭に手を当て、目を閉じ考える。入学して以来、自主的に掃除してきたこの場所を蓮はよく知っている。
「入れるとしたら……ドアか、あそこぐらいでしょうか」
上に取り付けられた天窓を見る。ガラスはブラインド型で斜めにしか開かず、窓には格子がはまっている。今のところ、蓮が想像するトレペちぎりの正体とは、人ではない何かだった。まず、張り紙の効果がないのだから、常識どころか字を知らぬと考えるべきだろう。被害が一階だけなのだから、おそらくは空を飛ぶことができない動物だろうか。
「例えば、猫とか……うーん……？」
犯人がドアを開けることができないのならば、入り口はあの天窓しかない。よく見れば、面格子のはまった天窓の下枠が、わずかに濡れていた。考えはまとまらず、蓮は小さく息を吐く。どうにも困っていた。犯人に怒っているわけでも、いらだちを覚えているわけでもない。なぜこんなことをしているのか、どんなに想像してみても自分には理解できそうにない、そのことが蓮の心を曇らせるのだった。
（どなたがこんなことをしているのか。どうか反省して、やめてください。もし出会えたなら、私は更生への道を、あなたが自ら引くためのお手伝いをしましょう）
願いを込めて、雑巾を手にする。
7時40分、少し早めの登校をしてきた女子生徒が通る。日本人には見られない、鈍い光沢を持つ灰色の髪が美しい上品な少女だ。しずしずと武治の横を過ぎ、透き通る、だが芯のしっかりした声で「おはようございます。お疲れさまです」と声をかけた。鈍色の少女、エレノア・エインズワースは廊下をまっすぐ進み、自分の教室までをも素通りすると女子トイレの扉を開けた。さすがに美化委員の男子生徒たちはここには立ち入れず、目の前に広がるは水と紙との混沌。決して気分のいい光景ではないはずなのに、それを見た彼女は笑みを漏らす。
「噂を打ち砕くのにはまた噂。水には……私の力を少々使ってやればいいのです」
そこにはどんな皮肉な結末が待っているのだろう？ うろたえる犯人、予想外の事態に驚く生徒たち。生まれたばかりの噂に踊らされる愚者が誕生する瞬間だって見られるかもしれない。自分が少しだけ仕掛けを加えてやるだけで、妖怪騒動は更なる彩りを与えられ、誰も考えもしなかった未来を描くだろう。想像するだけで愉快でたまらない。今日は面白い日になりそうだ。エレノアの不敵な笑い声が小さく響いた。
8時30分。もう始業ギリギリという時間だが、その際どいラインを悠々と渡りゆくのは1年1組、真辺 伸幸だ。中途半端に伸びた黒い髪はもちゃもちゃと襟足周りで踊っている。寝足りないのか、今日も眠そうな目をしてふらり、ふらりと歩いていた。廊下の窓越しに見えるのは急いで教室に戻る美化委員たち。きっと例の妖怪の後片付けをしたんだろうな、とぼんやり考えて、
「トレペ？ トイペだっけ？」
と自分に問いかける。もちろん答えは、どっちだって構いやしない。
「やあ、まあ……トイレがびちゃびちゃはどっちにしたって困るけどねぇ」
と独りごちながら首元がよれてしまった制服を引っ張って直す。よれの方向が反対側に移動しただけだったが、これまた伸幸にはどっちだっていいことだった。
「おはよー！」
鈍足前進の伸幸を、活発な女生徒の足がたちまち追い抜いていく。同じクラスの香坂 結月だった。腰にはトレードマークにして、救急アイテムから本日のおやつまで、あらゆる高校生活便利アイテムが入ったポーチがつけられている。
「おはようさんだねぇ。えーっと……」
「遅刻しちゃうよー？」
クラスメイトの少女は、伸幸に大きく手を振ると、あっという間に見えなくなった。
「お疲れさん」
「お疲れさまです！」
蓮はマウルが今しがた出てきた男子トイレをのぞき込み、猯利の姿を確認するとおはようございます、と声をかけた。掃除に集中したい亜魚隈 猯利はちらりと蓮を見て、ああ、とだけ答える。そしてまた自分だけの作業に戻って行った。
「ここはお二人が掃除中ですから、私は別校舎の方へ行きましょう」
南校舎の男子トイレへ足を踏み入れると、そこには昨日と同じ惨状が広がっていた。さすがの蓮も、またか、と思う。トレペちぎり事件以降の汚れ具合は目に余るものがあった。
「何とかならないでしょうか。事件以後変わった点……」
短く刈り込んだ頭に手を当て、目を閉じ考える。入学して以来、自主的に掃除してきたこの場所を蓮はよく知っている。
「入れるとしたら……ドアか、あそこぐらいでしょうか」
上に取り付けられた天窓を見る。ガラスはブラインド型で斜めにしか開かず、窓には格子がはまっている。今のところ、蓮が想像するトレペちぎりの正体とは、人ではない何かだった。まず、張り紙の効果がないのだから、常識どころか字を知らぬと考えるべきだろう。被害が一階だけなのだから、おそらくは空を飛ぶことができない動物だろうか。
「例えば、猫とか……うーん……？」
犯人がドアを開けることができないのならば、入り口はあの天窓しかない。よく見れば、面格子のはまった天窓の下枠が、わずかに濡れていた。考えはまとまらず、蓮は小さく息を吐く。どうにも困っていた。犯人に怒っているわけでも、いらだちを覚えているわけでもない。なぜこんなことをしているのか、どんなに想像してみても自分には理解できそうにない、そのことが蓮の心を曇らせるのだった。
（どなたがこんなことをしているのか。どうか反省して、やめてください。もし出会えたなら、私は更生への道を、あなたが自ら引くためのお手伝いをしましょう）
願いを込めて、雑巾を手にする。
7時40分、少し早めの登校をしてきた女子生徒が通る。日本人には見られない、鈍い光沢を持つ灰色の髪が美しい上品な少女だ。しずしずと武治の横を過ぎ、透き通る、だが芯のしっかりした声で「おはようございます。お疲れさまです」と声をかけた。鈍色の少女、エレノア・エインズワースは廊下をまっすぐ進み、自分の教室までをも素通りすると女子トイレの扉を開けた。さすがに美化委員の男子生徒たちはここには立ち入れず、目の前に広がるは水と紙との混沌。決して気分のいい光景ではないはずなのに、それを見た彼女は笑みを漏らす。
「噂を打ち砕くのにはまた噂。水には……私の力を少々使ってやればいいのです」
そこにはどんな皮肉な結末が待っているのだろう？ うろたえる犯人、予想外の事態に驚く生徒たち。生まれたばかりの噂に踊らされる愚者が誕生する瞬間だって見られるかもしれない。自分が少しだけ仕掛けを加えてやるだけで、妖怪騒動は更なる彩りを与えられ、誰も考えもしなかった未来を描くだろう。想像するだけで愉快でたまらない。今日は面白い日になりそうだ。エレノアの不敵な笑い声が小さく響いた。
8時30分。もう始業ギリギリという時間だが、その際どいラインを悠々と渡りゆくのは1年1組、真辺 伸幸だ。中途半端に伸びた黒い髪はもちゃもちゃと襟足周りで踊っている。寝足りないのか、今日も眠そうな目をしてふらり、ふらりと歩いていた。廊下の窓越しに見えるのは急いで教室に戻る美化委員たち。きっと例の妖怪の後片付けをしたんだろうな、とぼんやり考えて、
「トレペ？ トイペだっけ？」
と自分に問いかける。もちろん答えは、どっちだって構いやしない。
「やあ、まあ……トイレがびちゃびちゃはどっちにしたって困るけどねぇ」
と独りごちながら首元がよれてしまった制服を引っ張って直す。よれの方向が反対側に移動しただけだったが、これまた伸幸にはどっちだっていいことだった。
「おはよー！」
鈍足前進の伸幸を、活発な女生徒の足がたちまち追い抜いていく。同じクラスの香坂 結月だった。腰にはトレードマークにして、救急アイテムから本日のおやつまで、あらゆる高校生活便利アイテムが入ったポーチがつけられている。
「おはようさんだねぇ。えーっと……」
「遅刻しちゃうよー？」
クラスメイトの少女は、伸幸に大きく手を振ると、あっという間に見えなくなった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2013年06月13日
- 参加申し込みの期限
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- 2013年06月20日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2013年06月20日 11時00分
