【可愛さ爆裂！　ふれあいコーナー（２）】

　小さなお子さまというのは時に、とてつもないパワーを発揮したりするものです。
　特に動物園へなんて訪れようものなら、もはやそのテンションは常にＭＡＸ！　親御さんたちも手が付けられないくらいにヒートアップしてしまうわけです。
「わー！！　どうぶつがいっぱいだー！！　なあなあ、どこから見る！？　どこから見るー！？」
「すごーい、本でしか見たことない動物さんがいっぱいだー！　アンちゃんユキちゃん、どこから行く？　どこから見るー！？」
　仲の良いお友だちの東条 あんずと、今回は一番年上で保護者的な役回りであるはずの渡辺 美里愛が揃ってこんな調子ですもので、クールな楠木 ゆきのははふぅと息をついて言いました。
「……ふたりとも。はしゃぎすぎて、迷子にならないで……？」
「「だいじょーぶだいじょーぶ！！」」
　ともあれ、絶滅動物園！　なんだか良く分からないままに連れてこられてしまったものの、せっかくなので楽しまなければ損というものです。
　そして彼女たちは大抵の同年代のお子さまたちと同様に、動物とか大好きなのでした。
「うちはなー、サファリパークが見たいなー！　迫力あってすごいんだって！　でも水族館もすごそーだし、ふれあいコーナーで動物と仲良くなりたいなー。うーっ、決められないぞー！？」
「ミリアはねー、全部！　全部いきたーい、全部みたーい！」
「ゆきのは……ふれあいコーナー、いきたい。恐竜は、触れないし……嫌（だって、大きくて、怖いし……）」
　意見は分かれましたものの、大丈夫。時間はタップリあるのです。
「ゆきのは動物抱っこしたいのかー？　それじゃ最初は、ふれあいコーナーいこうぜー！！」
「うん、じゃあそこからいこっか！　ミリアはおねーさんだからねー、ユキちゃんにゆずってあげる！　えっへん！」
　ゆきのの意見を尊重する……という体ながら、パワフルなあんずも天真爛漫な美里愛も、結局全部回るつもりのようです。
　目を離すとその隙に、鉄砲玉みたいにぱーんっとどこかへ行ってしまいそうなふたりの手を、ゆきのはきゅっとにぎります。
「ほら……いくよ……？（迷子になったら怖いから、はなれないでね……？）」
　いつだってなかよし三人組は、そうして繋がり合ったまま、さっそくふれあいコーナーへ向かうことにしました。



　あんずの瞳は、ぶわーっ！　と光が舞い散るように輝きます。
「わー！！　ゆきの、ミリア、見て見て！！　すっごく可愛いぞー♪」
　ちっちゃなちっちゃな赤ちゃんを抱き上げて、とくいげ！
「この動物は、なんていうんだろー？」
「うわーかわいいねー！　この子はねー、ホラアナライオンの赤ちゃんだよー！　ライオンだけど、もふもふしてないライオンさんだよー！」
「へー！　ミリアってものしりだなー！」
　いろいろな絶滅動物について、美里愛は図鑑や本で見たことがあるそうで、なかなかの博識ぶりであります。
　と思いきや、とことこやってきたしましま模様の狼には、あんずも見覚えがある様子。
「あっ、こいつはうちも知ってるぞー！　フクロオオカミだ！」
　タスマニアタイガーの異名を持つフクロオオカミは獰猛な肉食獣かと思いきや、園内の穏やかな環境でのんびりと暮らしているからかやけに人懐っこく、あんずのほっぺをぺろぺろと舐めました。
「わー、くすぐったい！　へへへ、かわいいなー！」
「あんずも、ミリアも……動物の名前、分かるの？　へぇ……」
　控え目なゆきのは、大人しいとはいっても大きな動物が怖いのか、一歩引いてフクロオオカミとあんずの交流を見つめています。
　とぎれがちな彼女の言葉はときおり冷たく聞こえたりもしますけれど、口下手でちょっぴり感情を伝えるのが苦手なだけであるのを、あんずも美里愛も知っています。
（ふたりとも、動物に詳しいんだね。すごいなぁ……）
「ゆきの、ゆきの！　赤ちゃんなら怖くないんじゃないかー？　ほら、抱っこ抱っこ！」
「怖い……？　誰が……？　て、適当なこと、言わないで……（こ、怖くないもん！）」
　足元にころんと転がったホラアナライオンの代わりに、あんずが抱き上げてみせたのは、サーベルタイガーの赤ちゃんです。
　ゆきのはイヤイヤをしましたけれど、ほらほら！　とすこーし強引、けれど明るいあんずの笑顔と、それに赤ちゃんタイガーのあんまりにも愛らしい姿に、思わず根負けしてしまいました。
　あんずから赤ちゃんを受け取って、もふもふ。ふかふか！
「どお、どお？　ゆきの、どお？」
「……！　か……かわいい……！」
「へへー、やったー♪」
「よしよし。なんだか、ネコみたい……にゃーん……？」
　ふわりと頬をほころばせたゆきの。彼女が楽しいと、あんずもなんだか楽しくなってしまうのでした。
「アンちゃんもユキちゃんも、すごーい！　ミリアはどの子をだっこしようかなー？」
　のんびり寝そべったフクロオオカミにもたれながら、ホラアナライオンとサーベルタイガーの赤ちゃんを抱きしめたふたりに触発されてか、美里愛もきょろきょろとあたりを見回します。
　と、
「わー！　この子かわいー！　ミリアこのこにするー！」
　ててててっ。頼りなげな足取りで歩いてきたのは、ドードーのひな鳥！　成鳥は１メートルくらいあってけっこーでっかい鳥ですけれど、生まれたての子どもはさすがにちっちゃくて、なんだかひよこみたいです。
「おいでおいでー、ドードーさん……えへへー、よろしくねードーちゃん♪」
　とつぜん名前をつけられて、ドーちゃんはぱちくり。けれど気に入ったのでしょうか、ふわりと抱き上げた美里愛の鼻先をつつんっと優しく突っつき、鳴き声を上げました。
「すごーい、ドーちゃんはドードーって鳴くんだねー！　だからドードーさんなのかなー？　ミリアもおへんじー、どーどー♪」
「うわー、その子もかわいーなー！　ね、ね、次はうち、その子だっこしてみたいー！　どーどー！」
「じゃ……ゆきの、次はライオンさん、だっこするね……？」
「うんうんー、じゃあドーちゃんよろしくね、アンちゃん！　ミリアはサーベルタイガーちゃんをだっこするよー！　にゃーにゃー！」
　そんなふうに楽しそうにしていると、いつしかほかの動物の赤ん坊たちもよちよち寄ってきて、三人はふわふわな毛皮と羽毛に包まれながら、しばし幸せなひと時を過ごしたのでした。



「それじゃー次は、サファリパークだー！　恐竜みるぞー！」
　あんずが元気よく腕を振り上げます。
「え……イヤ、かも……」
　ゆきのが眉をへにょりと下げました。
「えー！？　大丈夫だよーゆきの、怖くないから！　ね、うちが守ってあげる！」
「べ、べつに怖くない……」
　可愛らしい動物にはもちろん興味津々ながら、あんまりでっかいのは怖いらしいゆきの。
　しばらくの間、いきたいー！　いやー！　ってなやりとりが繰り返された後に、
「……いーきーたーいー！　やだやだ、サファリパークいくもんー！　いーきーたーいーのー！！」
「は、はずかしいよ、あんず……！」
　あんずは子どもの特権、伝家の宝刀、だだっこ地団太ふみふみを繰り出しました。じたばたじたばた！
　いえ、ゆきのももちろん子どもではありますけれど。
「ねー、いこーよユキちゃん！　ミリアも恐竜さんとおはなししたいなー！」
　ここは年上のおねーさんとしての威厳を見せつけるところ！　と思ったかどーかはさておき、美里愛もあんずとゆきのの背中をぽぽんっと叩きながら言いました。
「だいじょーぶだよー、ミリアも一緒！　だよー！」
「……ん……うん」
　もちろん、あんずは大切な幼なじみ。ゆきのも、そのお願いをかなえてあげたいという気持ちはあったのでしょう。
　こくんと小さくうなずいたゆきのに、
「ほんとかー！？　やったー！！　へへー、ゆきのとミリアといっしょにいきたかったんだー♪」
　あんずは大喜び。
　三人は手をつないで、仲良くカート乗り場へ歩いていきました。
　サファリパークにはちょっぴり怖い生き物もいたりしますけれど、大丈夫！　三人いっしょなら、きっと楽しいツアーを満喫できることでしょう。