＜月華＞冥晶宮襲撃　―迸るほどの想いの果てに―｜リアクション

＜月華＞冥晶宮襲撃　―迸るほどの想いの果てに―

急：それが、戦いの火蓋が切られた日

　――華夜！

　その声を聞いたような気がした御剣刀は、静かに瞳を開き、立ち上がった。魔物の猛攻の知らせは聞いていたが、このような事態になろうとは……。
「やるしか、ないな」
　綴の言葉に、恵御納夏朝と夏神零共々頷く。
　零が用意していたトラップが火を噴き、大鴉が炎に焼かれる。そうしながらも、黒い靄を放ちながら一人の青年……燈耶へと姿を変えた。
　その後から、赤い翼を広げたサキリ・デイジーカッターが追いかけ、それに白い虎が続く。志波武道が変化した姿だ。その背中には後木真央と呉井陽太を乗せている。
「額の緊箍児っぽいのは取ったのだ。でも、急に暴れだしたのだ！」
　真央の言葉に、一同頷く。刀たちは獲物を手に身構え、迎え撃つ。
「邪魔を、するなあああ！」
　燈耶が炎を巻き起こし、零がろっこん『朱雀之舞・翼刃』を発動させて切りかかる。それにあわせ刀がろっこん『加速』で聖水の瓶の中身をぶちまけた。
（後を抜かれたら意味は無い。ここで……！）
　聖水の所為か、燈耶の攻撃が弱まった気がした。たじろぐような彼へ、夏朝がねこシールを張る。そして、ろっこん『重く軽く』を発動させて抱きしめる。その脳裏に優しい金の光を零す月をイメージして。
「燈耶……、もう、無理しなくていいんだよ……」
「！？　華夜さま……？！」
　夏夜が抱きしめ、ろっこんを使った途端、手にしていた月長石のバングルが淡く輝く。それに合わせ、月光のような光が月長石からこぼれ出た。
　横槍が飛んでこないよう、刀と零、陽太、武道は自然と周囲を警戒する。綴は念のために、と奥の扉の前に立ち、真央は燈耶の側にしゃがみこんだ。
「救うって言い方、おこがましいって知ってるのだ。それでも、愛憐達にだって必ず届かせるのだ。その為にも、こっちに来てもらうのだ」
　真央が漸く目に生気が宿った燈耶にそっと願いをこめて言う。燈耶はその言葉に、僅かに困惑したようだった。
「こっちに、来てもらう？　倒す、ではなく？」
「うん。燈耶ちゃんが、華夜ちゃんの側に居ればいいのだ。居続ける為に必要な事を一緒に考えるのだ。そうだ、星華ちゃんも一緒に！」
　２人の事も守るから、と、真央は胸に手を当てて切実な思いをこめて言う。だが、燈耶の表情は晴れなかった。
「ありがとう、カアサ殿、マオ殿、ネコジマの各々方。だが、私はもう……貴人から崩れ、魔物に戻ろうとしている。帳の術によって、私は理性を保ちづらくなっているのだ」
　燈耶の言葉に、真央と夏朝の表情がこわばる。そこに現れたのは、追いかけてきた新田亮だった。彼は空気が変わったのを肌で感じ、真央と夏朝に告げた。
「交渉が決裂したのか？」
「違う。このままでは、私は魔物の姿となり、もっとたちの悪い姿となって各々方を苦しめるかもしれないのだ」
　燈耶の言葉に、亮は頷き、静かに拳を握った。
「お前が望むならば……介錯しよう」
「本当に、それでいいのか……？」
　刀が、僅かに息を飲んで燈耶へと問いかけた。

　＊・＊・＊

　その頃、魔物の猛攻が急に止み、尾鎌蛇那伊、優木遥斗、ウォルター・ブラックウッドは一息ついていた。その視線の先では、骨削瓢が星華を魔物から庇いながら駆け込んでくる。
「こんなに走ったのは久しぶりでさぁ！」
「あらあら、やるじゃない」
　ろっこん多用とダッシュの疲れから星華共々倒れこむ瓢を蛇那伊が受け止める。星華がすぐさま立ち上がって警戒するも、遥斗たちは首を振った。
「その様子だと、敵意はないようだな」

このページにイラストを設定する