ラブ☆部活＆同好会デー｜リアクション

ラブ☆部活＆同好会デー

　どこか浮かない顔で史越奈津樹が道の端を歩いている。ほっそりとした身体で背は高い。人混みに紛れても十分に目立つ。しかし、自らの足で群衆に塗れることはなかった。眼鏡の奥の目でチラチラと周囲を見るだけにとどめる。
　手には勧誘のチラシを持っている。見出しにパソコン部の名前が印刷されていた。
　完成したチラシを奈津樹は改めて目にする。パソコンの基本的な使い方が優しい口調で書かれていた。読み易い文面からは作成した人物の人柄が窺える。
　文章の合間にピンク色の髪をした女の子が描かれていた。胸の谷間を強調するような前屈みの姿勢を取る。ところによっては意味ありげに下唇を舐めていた。
　――突貫工事でチラシを作って、完成した時は最高だと思ったけど、これって恥ずかしくないか？
　なんで髪の色がピンクなんだよ。どこの美少女ゲームだ。寝子高の生徒にも見えないし。
　奈津樹は顔に掌を当てた。親指と薬指を使って軽くこめかみを揉み解す。
「……俺が作ったんだよな」
　力ない溜息が漏れた。
「勧誘の人ですよね！」
　はきはきとした声を掛けられた。声の方を見るとショートカットの女子がいた。後ろ手を組んだ姿で手の中のチラシを覗き込む。奈津樹は中身を見られないように胸に押し付けた。
　女子は不満気な顔で奈津樹を下から睨み付ける。
「どうして隠すんですか。わたし、パソコンに興味があるのに。それ、勧誘のチラシですよね？」
「まあ、そうだけど」
「じゃあ、見せてください！」
　女子は掌を突き出した。せがむように何度も指を動かす。奈津樹はわざとらしく眼鏡の中央を指で押し上げた。
　軽い呼吸のあと、相手の掌を見詰める。間を持たせるかのように頷き、ぎこちない笑みで顔を上げた。
「生命線が長いね」
「そんなことより、チラシをください！」
　荒げた声で掴み掛ってきた。奈津樹は身を捩って抗う。結果、周囲の目を呼び込むことになった。
「なんだ、アレ」
「ケンカじゃないよね？」
　奈津樹は懸命に顔を振った。否定する意味を強く込める。その隙を衝かれた。下がり気味の手に女子が跳び付いた。反動で一枚のチラシが地面に落ちる。
「ゲットしました！」
　女子は笑顔で戦利品を手にした。その場で読み始める。奈津樹は情けない表情で立ち尽くした。
　女子は真剣な表情でチラシと向き合う。目にしながら質問を口にした。
「……このイラスト、誰が描いたのですか」
「俺だけど、やっぱりヘンかなぁ……」
「全然、ヘンじゃないですよ！　あなたが文月さんなのですね！」
　顔を上げた女子は目を輝かせていた。奈津樹は困惑した表情で言葉を返す。
「どうして俺のハンドルネームを知っているんだ？」
「イラストサイトに文月で投稿してたじゃないですか。こんなところで会えるなんて、驚いちゃいましたよ。パソコン部、覗いてみますね」
　女子は弾むような足取りで雑踏に紛れた。
「世間は狭いなぁ」
　疲れた表情で奈津樹は淡々とチラシを配った。順調に数を減らしていく。
　通り掛かった響蒼留人も受け取った。文面に意識を傾ける。イラストに微かな拒否反応を見せつつ、最後の行まで目を通した。
「……パソコンは役に立ちそうだな」
　呟きつつ、南校舎の方に歩いて行った。