さくら、ふたたび｜リアクション

さくら、ふたたび

「街がピンク色に染まっていく……これはテオも動くな」
　御剣刀は、街を見渡して呟いた。思った通りに空間が切り取られ、テオの説明がどこからともなく聞こえてくる。気付けば、手には大きな筆が握られていた。筆にはたっぷりと緑の絵の具がついている。
「なるほど、フツウの危機だな！　ならやってやる！」
　刀は筆を握り直し、気合いを入れた。さくら色の塗装は放っておいても元に戻るらしいが、さくらねこ星人が塗るのを止めなければいつまでも終わりは来ないだろう。
　筆を剣のように持ち、体に染みついた動きで近場の壁から緑の絵の具を塗っていく。素振りと共に、緑色の真っ直ぐな線が書かれる。それを繰り返したり角度を変えたりしながら、刀は上手くさくら色を緑に塗り返していった。
「に゛ゃ゛っ゛！　いつのまに゛ゃ゛っ！」
　さくらねこ星人が刀に気づいたのは、とある壁が一面、緑に変わった頃だった。ダッシュでやってきて塗り直しにかかるが、全てをさくら色にするには時間がかかる。その間に、刀は緑の範囲を広げている。ろっこん「加速」を進化させた状態で使い、壁を足場にして上に移動し、常人には不可能な速さで緑色の「縄張り」を増やしていた。
「負けないに゛ゃ゛！」
　さくらねこ星人も見かけによらず動きは速かったが、それでも刀には及ばなかった。緑になった部分をさくら色に戻しきれない。
「速さで俺に勝てると思うなよ！」
　絵の具を塗った壁はべたついていて、壁から靴を引き剥がすのに一瞬余計な時間がかかる。だが、それもさくらねこ星人に追いつかれる程のタイムロスにはならなかった。確実に緑の面積を増やしていると、下から飛んできたさくら色の絵の具に当たりそうになって間一髪で避ける。下を見ると、大きな刷毛のような武器を持ったさくらねこ星人が緑に塗った場所を塗り返していた。刷毛は絵の具をかなり遠くまで飛ばせるようで、刀が塗った高所まで絵の具が届いている。
「塗られたら塗り返さないと、街を桜色に染め上げられないもんな！」
　刀は高所から落下するような速さで移動すると、さくらねこ星人を塗ろうと筆を振る。
「に゛ゃ゛っ゛！！」
「ぶはっ！？」
　しかし、さくらねこ星人の方が早く、気がついた時には顔に絵の具が直撃していた。
「やるな、こっちも負けないぞ！」
「み゛ゃ゛っ゛！！」
　しばらくの攻防の後にさくらねこ星人に勝利した頃には、刀はこの状況に夢中になっていた。
「うん、なんか楽しくなってきた。上等、このままとことんやってやる！　うおおおおお！！！」
　刀はやる気を漲らせて、緑の範囲を更に増やすべく、そしてさくらねこ星人を倒すべく筆を振るいまくり始めた。