4月も中旬になり、新入生だったり新社会人だったり学年がひとつ上がったりクラス替えがあったりというドキドキな時期が少しばかり落ち着いたある日、小鳥カフェ&ホテル『TABE=TYA=DAME』で、店長の
小鳥遊 風羽は店の隅でお裁縫に勤しんでいる森宮 檎郎をぽけーっと見ていました。
『フワちゃん、ずーっとゴローちゃんを見てるね。どうしたの?』
風羽の頭に適度な重さを提供しているボタンインコのぼたもちが訊きました。風羽はぼたもちとさっきキスをしているので話ができます。
「いえ、なんか、森宮さんが~」
『もしかして、フワちゃん……』
「また個性的なものを作っているので~」
『へ?』
想像と違うことを言われ、ぼたもちは檎郎を見直します。彼が作っているのは、新しい着ぐるみでした。人の持つセンスがどうとかいう感覚がないぼたもちは、上手だなーと感心していました。
檎郎は桜色をした、桜の花っぽい頭の中央に奇怪な顔のついた黒猫の着ぐるみを制作しています。手には、なぜか等身大の筆を持っています。
「よし、出来た!」
満足そうに言うと、檎郎は客も含めた店にいる全員に会心の笑顔を向けました。
「も、森宮さん~。そ、その着ぐるみは~……」
皆を代表する形で、風羽はおそるおそる着ぐるみの正体について確認を試みました。
「これは、さくらねこ星人です! さくらねこ星からやってきたんですよ!」
「は、はあ、そうですか~。で、あの、その筆は~……」
「さくらねこ星人の使命は、他の星をさくら色に染めることなんです! 桜が散って、もっと桜が見たいなーとみんなが名残惜しく思わないように、この筆で街の全てをさくら色に塗りたくるんです!」
「はあ~……」
首を傾げる風羽は、困っているようでした。理解不能という表情をしています。
「でも、さくらねこ星人には天敵がいます! それは、街を元に戻そうとする現地人です! 現地人は、花が散った後の桜の木を取り戻そうと緑の絵の具で対抗するんです! 緑の絵の具をかぶったさくらねこ星人は、さくらねこ星に強制帰還されます。親切が拒否される悲しい現実です!」
「現実というか、妄想ですよね~」
余裕を取り戻したのか、風羽がにっこりと笑います。その時――
『うわあ!』
ぼたもちがびっくりして声を上げます。
店に、さくらねこ星人がものすごい勢いで入ってきました。さくらねこ星人は、筆や銃を使って店をさくら色の絵の具で塗りたくっていきます。客や、店の鳥達にも絵の具は跳ねます。
「わ、私のお店が~。鳥さんが~」
おろおろとする風羽にも絵の具が散っています。ぼたもちにもばちゃっとかかりました。
「…………」
『…………。あれ? でもこの絵の具、さらっとして……』
人や生き物に当たった絵の具は、一定時間で消えるようです。ですが、消えるまでは絵の具として、液体としての特性はきちんと持っているようです。
例えば、服が濡れて張り付くとか。
髪から絵の具が垂れるとか。
とか。
とか。
「…………」
ぽかんとして黙っていた風羽の手に、どこからともなく水鉄砲が現れました。
『水鉄砲……。緑の絵の具が入ってるよ? これって……』
「お、俺が作った着ぐるみが現実になってます! ど、どういうことなんだー!」
店の隅で、檎郎が叫んでいます。
珍しく混乱している彼に、風羽は声をかけようとしました。
「あ、あの、森宮さん……前から思っていたんですけど、もしかして、これってろっこ……」
キイ、と店のドアが開いて、黒と白の猫……テオがとてちてと中に入ってきます。
「ろっこんだ。しかも暴走して、もう街の中が絵の具まみれにされ始めている」
テオはそう言うと、さくっと空間を切り取りました。
こんにちは、沢樹一海です。
街をさくら色に塗りまくろうとするさくらねこ星人と戦い、そして交流しましょう。
切り取られた空間の中で、人々は1人につきひとつ、武器を与えられます。
それは銃だったり、スコープつきのライフルだったり、バケツだったり、筆だったり人によって様々です。
武器からは、無限に緑の絵の具が出てきます。絵の具を使って、さくらねこ星人を全滅させることができたら人類の勝利です。
ですが、さくらねこ星人に悪意はありません。
さくら色の景色を提供したがっているだけですので、
彼らと遊んでしまうのも良いでしょう。
それでは、今回もよろしくお願いします!