Bloody Night:Deadly Twin｜リアクション

Bloody Night:Deadly Twin

■この世はユートピアのパロディ。善きことをなせど、平等に人は死ぬという。
　ヘッドショット。
　膝から落ち、うつ伏せに倒れる。
　再装填。
　目標を変更。縄に縛られた男。
　ヘッドショット。
　右向きに倒れる。
　追加目標なし。行動終了。
「……ご馳走様」
　望遠スコープから目を離し、八神修は呟いた。
　まるで木の上から目を見張る鷹のように、修は時折ビルの上からこうして食事を取る。
　きわめて簡素に見えるかもしれないが、これこそが修にとって最も素晴らしい食事方法だった。
　自らの手が血や泥で汚れることはなく、反撃のリスクも少ない。
　町の住民は何度でもよみがえるために死への恐怖や忌避を持たず、こうして定期的に狙撃を行なっても窓を開けたまま過ごしている。
　ブロック食のように確実で、安全で、そして静かな食事だ。

　修は孤独を愛していた。
　孤独の中でする食事を愛していた。
　誰も自分を知らない場所で、誰に語りかけられることもなく、ただ一人だけが満たされ、そして終わっていく。
　自由も束縛もない、ただただひとりだけの時間。
　そんな時間を過ごすには、この町はうってつけだった。
　手を翳し、銃をゆっくりと分解する。取り外したスコープを目元に翳し、町の様子を探ってみた。
　今日も添木牡丹はひとを自宅に引き込み、手足を落としてお人形遊びのような『お世話』を続けている。
　最近は白真白という気の合う友人を見つけたようで、かわりばんこでたがいの『お世話』をしては充足の日々を送っているようだ。
　朝鳥さゆるは相変わらず通行人を誘惑しては殺し、見つけては殺している。それを咎める者はいないが、彼女の無差別殺人を不気味がる者はいるようだった。
　それに輪をかけて不気味なのはヨハン・プレストンだ。救済をうたって人を殺して回り、苦しんで死ぬほどよいという思想から必ず素手で殺すことにしているという。
　だが最近はさゆるとヨハンの間でウマがあったらしく、毎週土曜日の夜に裏路地で出くわしては殺し合いをして遊んでいる。
　待ち合わせをしているわけでも、まして互いを名乗り合っているわけでもないのによくも続けるものだと、修は思う。
　行きずり殺人と言えば新田亮も有名だ。道ばたで腕のたちそうな人間を見つけると誰彼構わず挑みかかり、超人的な腕力で強引に殺してしまうそうだ。世が世なら怪獣のたぐいと呼ばれそうだが、この町では彼もごく普通の住人扱いだ。
　彼を追って町に入ってきた新田樹は、以前から町に魅了されていた様子がある。
　町のあちこちでおこる殺人を観察しては、それを絵画にして残していた。
　美しい趣味だと修も思う。この歪んだ常識をとらえ、それでいて理解している。
　七峯亨もそうだ。夜の町に繰り出してナンパでもするように女性に声をかけては、それこそひとときの情事のように殺して去って行く。
　殺される側もそうなることをうっすらと期待し、時に僅かに裏切られ、しかし最後は満足そうに死んでいくのだ。
　誰もが自らを満たそうとして、誰かを満たしている。
　おそらくは孤独を自負する修ですらも、誰かを満たしているのだろう。
　殺すことにより、死ぬことにより、人々は永遠に満たされ続ける。
「この町では、死は終わりじゃない。俗世では醜く穢らわしいとされてきた殺人ですら、優しく愛おしいものなんだ」
　修は医学書を開き、再び孤独の時間を楽しんだ。

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