Bloody Night:Deadly Twin｜リアクション

Bloody Night:Deadly Twin

■出刃包丁が愛の顔をして焼き場へやってくる。見よ、ヘモグロビンの川が北へ流れてゆく。飢餓を知らぬ船たちよ、いざ加わろうではないか。
　愛の形を知るものよ。
　愛の色を知るものよ。
　そして愛のゆくえを忘れたものよ。
　添木牡丹が出刃包丁を握るとき、同時に果物ナイフを、同時に五寸釘を、同時に木工のこぎりを握ったとき、この世に愛があることを思い出すだろう。
　恐れることはない。
　逃げる必要なんてない。
　ここは愛のある場所、デッドリータウン。
　彼女の愛を想うとき、この町を思い出せ。

「ねえ、愛ってなんだと思う？　愛って、どういうものだと思う？」
　スプリングの潰れたベッドの脇。
　スープボウルに木のスプーンを沈め、ゆっくりとかきまぜる少女。名を添木牡丹という。
「私？　私は、愛は与えるものだと思うの。与えられるものだと思うの。愛し合うことは、与え合うこと」
　湯気のたつコーンスープ。スプーンにひとすくい。
　鼻孔をくすぐる香り。
　口元へ寄せる牡丹。微笑む。頬に朱のさす、美しい顔。
「沢山沢山、与えてあげる。沢山沢山、私に与えてね」
　歯のない口にスプーンをねじ込み、喉の奥へと押し込んでいく。咳き込む。頭を押さえる。暴れる。頭を押さえる。
　肩口から切り落とされた腕を振ろうともがく。
　股下から切り落とされた足を振ろうともがく。
　スープボウルが頭上に掲げられる。熱湯に等しいコーンスープが口へ降り注いでいく。焼け付く喉。
「ああ……あぁ……」
　嬌声。
　身をよじり、牡丹は持っていたフォークを自らの手首に突き立てた。
　突き立て、突き立て、突いて捻る。
　まるで自慰行為のごとく手首を切り開くと、包帯を通して相手の手首に傷を移していく。
「□して」
　何か言ったようだ。牡丹は耳を寄せて、うっとりと彼の声を聞いた。
　再び。
「□して」
「そうね。あなたには沢山与えたもの。あなたからも、貰わなくちゃ」
　流れ出ていく血を見過ごして、ゆっくりと腐っていく身体に頬をつけた。
「幸せよ。とっても、幸せ。だからきっと、私のことも殺してね」
　ベッドの上の半死体が完全な死体になるまで、牡丹はまるで性行為のようによりそった。
　深く深く、満たされるように。
　いつまでもいつまでも、満たされるように。

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