南校舎の階段、午後三時。｜リアクション

南校舎の階段、午後三時。

【１】南校舎の階段

　午後三時まであと少しというころ。
　八神修と後木真央は、南校舎の階段の二階の踊り場へとやって来た。
　新聞部の部室を出る直前に、パソコンのメモ帳画面に『二階の踊り場』の文字が追加されたためだ。
　だが、そこにはもう一人、同じ寝子高生の姿があった。
「美咲紀」
「美咲紀ちゃん！」
　二人の声に、ふり返ったのは同じ二年生の椿美咲紀だ。
「シュー君と、真央ちゃん」
　美咲紀も驚いたようだが、すぐにもしかして……と言った顔つきになる。
「二人も、『南校舎の階段、午後三時。』のメッセージをもらったのですか？」
「ああ。……美咲紀も、なのか？」
　うなずいて尋ねる修に、美咲紀は突然スマホのメモ機能が開いて、そこに『南校舎の階段、午後三時。二階の踊り場』という文章が入力されたことを告げた。
「真央ちゃんたちも、そうなのだ！　パソコンの画面に、突然、文字が入力されたのだ！」
　話を聞いて、真央が叫ぶ。
「そうなのですか？　私はそれで、まずは指定の場所へと、ここへ来たのです」
　軽く目を見張って言うと、美咲紀は続けた。
「ここへ来て、思い出したのです。『言えなかった言葉』の元になった寝子高の昔の噂話を」
「そういえば、美咲紀もあの本を読んでたんだったな」
　修が思い出して呟く。
　そこにやって来たのは、一年の水上桜と二年の桃川圭花、同じく二年の串田美弥子の三人だった。
「後木さんに、椿さんも……。もしかして、午後三時にここへ来いってやつ？」
　真央と美咲紀の姿に言ったのは、圭花だ。
「圭花ちゃんも、メッセージをもらったのだ？」
「ええ。それも、抜き打ちテストの最中にね」
　真央の問いに笑って返すと、圭花は桜と美弥子をふり返った。
「こっちの二人も、やっぱりそうみたいよ」
「ふむ。……俺たちを呼び出して、何かやらせたいことでもあるのか？」
　あのメッセージを受け取ったのが、自分たちだけではないと知って、修は眉根を寄せて考え込む。
　そこに突然、能天気な声が響いた。
「俺にラブレターをよこしたシャイなレディは、どの子かな？」
　ふり返る一同の前に、二年の八十八旗信彦が立っていた。
　彼は、二つに折った紙片を手に、その場の女性陣を見回すと、満面の笑みを浮かべて両手を広げる。
「俺はこうして会いに来た！　さあ、恥ずかしがらずに俺にその想いの丈をぶつけてくれないか。それとも、二人きりの方がいいなら、今すぐ場所を移そう！」
　だが、彼女たちには、いったい彼が何を言っているのかが、さっぱりわからず、ただ顔を見合わせるばかりだ。
「八十八旗。もしかして、午後三時に南校舎の階段に来るよう、メッセージをもらったのか？」
　修が、小さく咳払いしてから、尋ねる。
「やがみんじゃないか。……ああ、そうだ。だが、その言い方は味気ないな。メッセージじゃない。俺がもらったのは、ラブレターだ」
　今初めて修に気づいたと言いたげに破顔して、信彦は答えた。
「なんで、ラブレターだと思うの？」
　面白そうに、圭花が尋ねる。
「下駄箱に入っていたからな。古来、下駄箱に投じられる手紙は、果たし状か恋文と相場が決まっている。そしてこの手紙の文字は、丸っこいレディの筆跡だった。レディから果たし状をもらう心当たりがない以上、これはラブレターだ」
　信彦は言って、どうだとばかりに胸を張る。
　それを聞いた一同は、思わずこめかみを押さえた。

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