南校舎の階段、午後三時。｜リアクション

南校舎の階段、午後三時。

【４】屋上へ

　どうして、屋上に行くことにしたのか。
　階段を昇って行きながら、美弥子に問われて圭花はまず、自分があの場所に行ったいきさつを話し始めた。
　圭花の元にメッセージが届いたのは、授業中のことだ。
　抜き打ちテストが行われることになり、配られたプリントをふと裏返してみると、そこに文字が書かれていた。
『南校舎の階段、午後三時。風車じゃなくて、苺のほう』
　圭花は、思わず顔をしかめてその文章を見据える。
（何これ。いたずら？　……にしては、意味がわかりにくいわよね）
　不審に思いながらも、プリントを表に返す。
　ざっと目を通してみるが、どうやら裏に書かれた文字は、問題とは関係なさそうだ。
　彼女はそのままテスト問題を解いたが、授業が終わってプリントを提出する時には、なぜか裏に書かれた文字は消えていた。
　そして、そのせいもあってか、そのあともその文章は彼女の脳裏に焼き付いていたのだった。
　だから、三時前に指定の場所を訪れた。
　二つ目のメッセージを見て、圭花は自分が漠然と思い浮かべていた話が、関係あるらしいと思い至る。
（噂は噂だから……本当の話がそのまま伝わってるってことは、ないよね。たいていは、どんどん尾ひれがついたりするものだし）
　階段に来る途中、圭花は少女たちの話を思い出しながら、そんなふうに考えていた。
　けれど、こんなふうに探させようとするのなら、やはり何かあるのかもしれない……とも思う。
　それに、そこに集ったのは、自分だけではない。
　俄然、興味が湧いて来て、圭花はシルシ探しをやろうという気になった。
（仮にただのいたずらだとしても、まーそれはそれでいいわ。ヒマだし）
　そんなふうにも思った。
　いきさつを話し終えて、圭花は言った。
「『風車じゃなくて、苺のほう』っていうのが、シルシ探しのヒントじゃないかと思うんだけど……どっちもうちの学校の中で、ピンと来るようなものはないよね」
「そうね……」
　考え込みながら、美弥子がうなずく。
　それへ、圭花が続けた。
「それで、ちょっと見方を変えてみたの。英語にしたら、ＷとＳで始まる単語よね。……その頭文字ですぐに思い浮かぶものって言ったら、方角でしょ？」
「ああ、そうね。でも、ＷとＳ……西と南？　組み合わせとしては、少し変わってるかも？」
　うなずきつつも、美弥子は小さく首をかしげる。
「そうね。でも、方角だとしたら……屋上なら、方角がわかりやすいでしょ」
「なるほどね」
　圭花の言葉に、美弥子もうなずいた。

　やがて二人は、屋上へと到着した。
　圭花が考えたとおり、周辺が一望できて、方角もわかりやすそうだ。
「向こうに見えるのが北校舎……っていうことは、あっちが北だから、南はこっちね」
　言って、圭花は北校舎が見えるのとは反対側のフェンスに歩み寄る。
　その向こうに見えるのは、広々とした校庭だった。
「シルシは、校庭にあるってこと？」
　圭花の隣に並んで、美弥子が怪訝な声を上げる。
「……それとも、この風景そのものが、シルシだったりしてね」
　圭花が、呟くように言った。
「まさか……」
　驚いてふり返る美弥子に、圭花は笑う。
「シルシが何かすらわからないのよ？　そういう可能性も、あるでしょ？」
「それは……そうだけど……」
　言いさして、美弥子は小さく唸ると校庭へと視線を戻したのだった。

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