南校舎の階段、午後三時。｜リアクション

南校舎の階段、午後三時。

【５】約束のシルシ

　修、美咲紀、信彦の三人は、図書室に到着していた。
　最初のメッセージをラブレターと信じて疑わない信彦は、『約束のシルシ』を自分と差出人の間で交わされたものだと思い込んでいる。
（大事なものを隠すなら、天候の影響を受けにくい屋内だよね。……他の人に見つかって持って行かれるような事態は避けたいはずだから、隠し場所は人の出入りが激しくないけど、容易に出入りできるところ……じゃないかな？）
　こんなふうに思って、図書室に来たわけだが、その中でもなるべく借りる人の少ないコーナーを探してみようと彼は考えた。
　というわけで。
「俺は、こっちを探してみるよ」
　修と美咲紀に声をかけると、信彦は図書室の奥の、人気のない方へと姿を消した。
　それを見送り、修はまず少女たちについて調査を始めた。
　結果、当時の地元の新聞の縮小版からは事故死した少女の顔と名前が、過去の寝子高新聞からはもう一人の顔と名前が判明した。
　名前がわかれば、あとはさほど難しくはない。卒業アルバムと文集から、住所だけでなく趣味なども読み解くことができる。
　それを参考に、修は考えを巡らせた。
「『約束のシルシ』が何かによっても、隠す場所は違って来るだろう。……たとえば、二人で撮った写真なら、栞として本に挟んであるかもしれない。あるいは、手製の絵本を作って交換し、書架の片隅に隠した可能性もある。それとも……そう、手紙を交換して、額縁の裏なんかに隠したのかもしれない」
「私も、シルシが栞という線は、あるかもしれないと思うのです」
　修の調査を手伝った美咲紀は、その言葉にうなずいて言う。
「彼女たちが好んで読んだ本が、あるはずです。お互い似た感性を持つなら、同じジャンルが好きでしょ。あまり読まれない作品を好きになった二人、というつながり。その本に、シルシとなるような栞を挟み込んであるとか。……あるいは、その作品に関する考察や二次創作メモなどがあるかも。それは、何にも代えがたい、『約束のシルシ』ではないかと思うです。自分たちが、そこに在った証でもあるから」
「なるほどな。……では、まず、過去の貸し出しカードからあたりをつけた、二人が共に読んでいる本を調べてみることにしよう」
　言って修は、図書館の奥の方の書架を目指して歩き出す。
　美咲紀も、そのあとを追った。

　一方、噴水周辺では。
　真央と桜が、へたり込んでいた。
　二人で丹念に調べ、思いつく限りのことをチェックしていたが、どこにもシルシらしいものはなかったのだ。
「このあたりには、シルシはないってことなのかな……」
　水盤の縁に腰を下ろして、桜は呟く。
「でも、他の人からも見つかった連絡はないのだ。だから、きっとここにあるのだ」
　真央が励ますように言った。
「うん……」
　うなずきながらも、桜の口からは溜息しか出て来ない。
　その時だった。
　噴水の噴出口の根元が、チカリと光ったように見えた。
「……今、そこが光ったように見えたけど……」
　桜の指さす方を、真央が覗き込む。
「噴出口に、鎖が巻き付いているのだ！」
　途端、真央が声を上げた。
　桜も立ち上がって、そちらに駆け寄る。
　たしかに、巻き付いているのは鎖だった。
　よく見れば、水盤と噴出口の間には浅い段差があって、そこに小さな箱が隠すように置かれている。
　鎖はそこにつながれていた。
「もしかして、あれが『約束のシルシ』かも……」
「真央ちゃんも、そう思うのだ！」
　呟く桜に、真央もうなずく。
　二人は、協力して隠された場所から箱を取り出した。
　金属の箱は、蓋の部分に花が彫られており、鍵がかかっていた。
　それを見て桜は、なんとなく壊れた花のヘアピンのことを思い出す。
　ポケットからそれを取りだし、少し考えて取れた花の部分を蓋に彫られた花の上に乗せた。
　そして、ヘアピンの方を、鍵穴に射し込む。
　するとそれは、まるでその箱の鍵だったかのように中に納まり、桜が軽くひねると、カチリと音がして蓋が開いた。
　中に収められていたのは、ペンダントだった。銀色の鎖の下には、ティアドロップ型のクリスタルが下がっている。そして、その真ん中には、小さくＷの文字が刻まれていた。
「……たぶん、これが『約束のシルシ』……」
　桜が、それを見下ろして低く呟く。
「そうに違いないのだ！」
　真央もうなずくと、スマホを取り出した。
　すぐさま修と、少し考えて圭花にも連絡する。
　そのあと、二人は改めてそのペンダントを見下ろすのだった。

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南校舎の階段、午後三時。

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