南校舎の階段、午後三時。｜リアクション

南校舎の階段、午後三時。

【３】中庭の噴水付近

　真央と共に中庭に向かいながら、桜はふと、自分が最初のメッセージを見た時のことを思い出していた。
　それは、昼休みが終わって教室に戻り、次の授業の準備をしていた時のことだ。
　机の中から、見慣れないメモが出て来た。
　そこには『南校舎の階段、午後三時。壊れた花のヘアピンを持って』とある。
（何かしら、これ……？）
　怪訝に思って眺めていると、メモは砂のように崩れ落ち、そのまま消えてしまった。
　あまりのことに、彼女は呆然となる。
　おかげで、授業が始まっても、あまりそちらに身が入らなかった。
　そして、三時前。
　彼女は奇妙な現象の理由が知りたくて、南校舎の階段へと向かったのだ。
　中庭に出て行きながら、彼女はポケットの中のヘアピンを手で探る。
　階段に向かう前、「そんなに都合よく、壊れた花のヘアピンなんてあるわけない」などと思いつつカバンの中を調べた結果、みつかったものだ。
「後木さんは、どうして噴水のあたりを調べようと思ったの？」
　なんとなく、桜は真央に問う。
「仲直りに相手の好きそうな本に手紙を挟んで読ませるのは、まさに恋愛的王道なのだっ。夏に涼しくて何時間も待てる場所なのも、ポイント高しッ。しかし今回は、女の子同士の友情メルヒェン。ならば、もっとメルヒェン度がアップする場所を真央ちゃんは探索するのだ！　……というわけで、噴水なのだ～」
　滔々と答える真央に、なるほどと桜はうなずいた。

　噴水の近くに来ると、桜は周囲を見回した。
「たしか、このあたりのはずだけど……」
　クラスメイトの話を思い出しながら、呟く。
（少女たちが二人で時を過ごすとしたら、どこにいたのかな……）
　桜はそんなことを思いながら、噴水に歩み寄った。
（水盤の縁に腰かけておしゃべりしたり、芝生に座ってお弁当を食べたり……）
　当時の少女たちの日常を想像しながら、水盤の縁に触れる。そして言った。
「私、『約束のシルシ』は、『少女たちにしかわからない場所』にあるんじゃないかと思うのよ」
「どういうことなのだ？」
　問い返す真央に、桜は答える。
「二人以外の誰かが来ても、容易に見つからない所――シルシは、そういう所にあるんじゃないかって」
「そういう考え方もあるのだ」
　感心したようにうなずくと、真央は続けた。
「真央ちゃんは、二人が理系か文系かで難易度変わりそうだと思っているのだ。文系なら噴水の中にメッセージ性の高い見つけやすいものを沈めて発見させるとか、噴水で虹ができるポイントで待つとか、理系なら噴水の角度変えて同じ条件で虹が出るようにするとか、ウォータースクリーンに映像とかやりそうなのだ～」
「面白い考え方だけど、さすがに映像はないと思うわ。だって、寝子高創立当時のことなわけだから、もう六十年も前よ？」
　桜は、苦笑しながら返す。
「でも、噴水の中とか、虹ができるポイントに何かっていうのは、ありそうな気がするわ。……とにかく、あらゆる可能性を考えて、この周辺を探してみましょう」
「そうするのだ！」
　真央もうなずく。
　こうして二人は、噴水周辺をくまなく探し始めたのだった。

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