ある日の放課後。
新聞部の部室で、
八神 修と
後木 真央は次の新聞発行のための作業をしていた。
修がつと手を止めて、真央に声をかける。
「こんな感じでどうかな。ちょっと見てくれるか?」
「はいなのだ」
うなずいて、真央が彼の机の方へと歩み寄った。
その時だ。
パソコンのモニターに、ふいにメモ帳が立ち上がって来た。
「え?」
「あ?」
思わず頓狂な声を上げる二人の前で、メモ帳に勝手に文字が入力されて行く。
『南校舎の階段、午後三時。』
カーソルの動きが止まっても、二人はしばし呆然とモニターを見つめ続けていた。
「修ちゃん、今、キーボード触ってないのだ?」
真央が、またたき一つして問う。
「ああ」
うなずいて、修は画面を睨みつけた。
パソコンが、誰も触れていないのにソフトを立ち上げ、勝手に文字入力するなど、あり得ない。真っ先に彼が疑ったのは、ウイルスに感染したのではないかということだ。
だが、それはそれとして――。
この文面に彼は妙に見覚えがあった。
(いったいどこで――)
しばし考え込んだ彼は、ふいに思い出す。
「そうか、あれだ。先日の……」
「修ちゃん?」
呟く彼に、真央が怪訝な目を向ける。
「俺はこれと同じ文面を、先日、図書室にあった本で見たんだ」
修は真央に言って、話し始めた。
少し前、彼は何か記事にできるようなものはないかと、図書室で寝子島の歴史について漁っていた。その時読んだ本の中に、寝子高創立当時を舞台にした二人の少女の物語を小説にしたものがあったのだ。
タイトルは『言えなかった言葉』。
その本の『あとがき』によると、この小説は当時の寝子高生の間で「事実だ」と噂されていた話を元にしたものだという。
それは、こんな話だった。
当時の寝子高に、とても仲が良くていつも一緒の二人の少女がいた。ところがある時、彼女たちは些細なことでケンカをしてしまい、互いに謝る機会がないままに日々が過ぎて行った。
そして、とうとう春休みになってしまう。
そんな中、一方の少女が仲直りを決意し、もう一人の少女を学校に呼び出した。
「――その時の伝言のメモに書かれていた文章が、たしか『南校舎の階段、午後三時。』だったんだ」
「ふうん。……それで、二人は仲直りできたのだ?」
修の言葉に、真央が尋ねる。
「それが、呼び出しを受けた少女の方が、学校に来る途中、事故に遭って死んでしまうんだ。それを知って、もう一人の少女は泣き崩れた――と、俺が読んだ本にはあった」
修は答えて、改めてモニターをふり返った。
「もしもこのパソコンがウイルスに感染していて、リモートで遠隔操作されてこの文章を入力したのだとして……遠隔操作した奴は、その二人の少女の話を知っていたということか? それとも、ただの偶然か?」
「それは、南校舎の階段に行ってみれば、わかるのだ!」
呟く修に、真央がくったくなく提案する。
「それはそうだが……」
言いさして、修は壁の時計に目をやった。三時まではまだ、充分時間がある。
「そうだな。行ってみるか」
うなずいて、修は立ち上がった。
念のため、パソコンの方はセキュリティーソフトを立ち上げて、全てのファイルとシステムに対するウィルスチェックを行うようコマンド入力する。
そして彼は、真央と共に南校舎へと向かった。
×××
その同じころ。
串田 美弥子も、南校舎の階段へと向かっていた。
彼女がその紙片を見つけたのは、北校舎にある美術室の前の廊下だった。
美術室で用を済ませて出て来たところ、床に落ちている紙片を見つけて拾ったのだ。
彼女は最初、それをゴミだと思った。
紙片には、たしかに何も書かれていなかったはずだ。
なのに。
捨てようと拾い上げたところ、表面にゆるりと文字が浮かび上がって来たのだ。
現れたのは、今日の日付と
『南校舎の階段、午後三時。』
の文字。
奇妙な現象に驚きながらも、一方では興味を惹かれて、彼女は南校舎へ向かったというわけだ。
南校舎の階段で、午後三時に、いったい何があるのだろうか――。
八神 修さま、後木 真央さま、ガイド登場ありがとうございました。
こんにちわ、マスターの織人文です。
さて今回は、不思議なメッセージを発端として、あるものを見つけていただく、宝探し風シナリオです。
××× 以下、PLさま情報です。 ×××
◆最初のメッセージについて◆
参加PCさまは、寝子島のどこかでメッセージを受け取ることになります。
メッセージにはかならず、『南校舎の階段、午後三時。』のワードが書かれています。
が、それ以外にも何か一つ、別の情報が加えられています。
(ガイド本文でいうと、串田 美弥子が手にしたメモには、日付が入っています)
その情報は、PLさまが自由に決めることができますので、アクションに書き込んで下さい。
なお、何も書いていない場合は、こちらで情報を加えさせていただきます。
◆南校舎の階段に到着したら◆
そこには、新たに『約束のシルシを探して』というメッセージがあります。
それを受けて、参加PCさまたちには、『約束のシルシ』を探していただきます。
以下の中から探索場所を選んで、アクションに明記して下さい。
なお、Dを選択した方は、探索場所も書いて下さい(探索場所は、寝子高内に限ります)。
また、選ぶことができるのは一つだけですので、その点、お気をつけ下さい。
A、南校舎の屋上
B、中庭の噴水付近
C、図書室
D、上記三つ以外の場所
◆少女たちの噂について◆
寝子高創立時の出来事だと言われている噂話です。
いつも一緒にいるほど仲のいい寝子高生の少女二人が、ある時、些細なことでケンカをしてしまいます。
仲直りの機会がないまま日々は過ぎ、春休みに入ってしまいました。
そんな中、一方の少女が仲直りを決意して、もう一人の少女を学校に呼び出します。
ですが、呼び出された少女は学校に向かう途中に事故に遭って亡くなり、とうとう二人は仲直りする機会を永遠に失ってしまったといいます。
噂では、一方の少女がもう一人を呼び出した場所が『南校舎の階段』だと言われています。
また、仲違いする以前に「ずっと仲良しでいよう」と互いの気持ちを込めて交換した品物を、少女たちは『約束のシルシ』と呼んでいたそうです。
また、『南校舎の屋上』『中庭の噴水付近』『図書室』は、どれも少女たちのお気に入りの場所だったようです。
なお、この噂を知っている・知らないは、任意に決めていただいてかまいません。
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このシナリオは、どなたでも参加いただけます。
小中学生や高校生以上のPCさまでも、どしどしご参加下さい。
それでは、みなさまのご参加、心よりお待ちしています。