午後六時のスーパーマーケット｜リアクション

午後六時のスーパーマーケット

　鮪のお刺身と白魚、それから白米の入ったレジ袋を手に、璃亜は嬉しい笑みを浮かべる。それぞれの帰路につく智瑜と彰尋の背中にぺこりとひとつ頭を下げて、旧市街にある独り暮らしの家へと歩き始める。
(温めたご飯に白魚と生卵をかけて、……鮪の半分はお刺身のままにして、半分はお醤油漬けにして載せちゃいましょうか)
　ちょっぴり不運な目に遭いもしたけれど、珍しく今日はそれを上回る幸運にも恵まれた、と青い瞳を和ませていた、そのとき。
　にゃーん、と頭上で声がした。
(猫……？)
　視線を上げて、ぎくりとする。路地を挟む石塀の上、夕陽に瞳をらんらんと輝かせて、猫が数匹。思わず身を固める璃亜の足元、猫たちは次々と塀から飛び降りた。虎に追われる手負いの小鹿じみて後退る璃亜に目がけ、猫たちは頭を低くして狩りの姿勢に入る。尻尾を振り振り、お尻を振り振り、
「っ、……い、いやっ……！」
　咄嗟に背中を見せて逃げ出す璃亜に躊躇いなく飛びかかる。
「あっ、ああっ……？！」
　猫たちの連続体当たりを受けて地面に膝をつく璃亜の手からレジ袋が飛んだ。中から零れ落ちる鮪と白魚のパックを素早い動きの猫がキャッチする。口に咥えてそのまま、夕暮れの路地を仲間とともに駆け去って行く。
「や、待って、待ってくださいっ……！」
　転んだ拍子に擦りむいた膝小僧の痛みも相まって涙ながらに叫ぶ璃亜の声に足を止める猫は一匹とて居ない。
「あ、あぁ……」
　暮れなずむ道端に、どこまでも薄幸な少女はひとり肩を落としてうずくまる。

　夕ご飯を猫に奪われたショックから立ち直り、仕方なく駅の『猫城岩井』の売れ残り弁当を探しに行った璃亜を待っていたのは、やはりと言うべきか、空っぽになった弁当棚だった。

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