ネコの気持ちが知りたいな！｜リアクション

ネコの気持ちが知りたいな！

　六限目の授業が終わった。遣り遂げた表情で椿美咲紀が鞄に教科書を収めていく。
　――何か、入っているのです？
　指が摘まみ出したのはイヤーカフスであった。猫の耳のような突起に笑みが浮かぶ。
　突然、美咲紀は立ち上がった。
「プレゼント、ありがとうなのです！」
　勢いで頭を下げる。クラスメイトは意味がわからず、困ったような顔で笑った。
　掃除が終わると美咲紀は陽気な状態で教室を後にした。左耳にはイヤーカフスが光っている。
　――早くウチの猫に会いたいのです。そんな気分なのです！
　自身に寄り道を固く禁じて星ヶ丘寮へと急いだ。

　豪壮な建物が建ち並ぶ一角に美咲紀の邸宅はあった。帰るとメイド達が主を出迎えた。軽い挨拶を交わすと目は猫の姿を求める。
　方々を回って自室の扉を開けた。二匹の猫の姿を見て笑みが零れる。
「ただいまー」
　その声に反応した二匹が駆け寄ってきた。
『おかえり～』
　白猫のスノウは雌らしく、柔らかい声で言った。
『あそべ、あそべ！』
　白黒柄のくろまめは欲望に忠実であった。美咲紀の脛に頭をぶつけて雄の荒々しさを垣間見せる。
　美咲紀は呆然とした顔で二匹を見下ろしていた。
　――……信じられないのです。ウチの子達の言葉がわかるのです。
　これは紛れもない奇跡なのですよ！
　表情が一気に緩んだ。二匹の猫を胸に抱え込む。頬擦りでは物足りず、顔全体を擦り付けた。
『くすぐったい～』
『もっと、もっと！』
　二匹は揉みくちゃにされながらも嬉しそうに応じた。
「大変に癒されたのです。今度は私がご奉仕する番なのです」
　机の引き出しを開けて猫の遊び道具を物色する。取り出したのはカラフルな猫じゃらしであった。
　目にした瞬間、くろまめが興奮状態となった。
『こい、こい！』
　美咲紀は棒の部分を伸ばした。太くて柔らかい先端の部分が垂れる。
「いきますよー」
　微妙な力加減で猫じゃらしを振った。くろまめは動きに合わせて頭を左右に動かす。鼻先を掠めた先端部分に透かさず猫パンチを入れた。
「なかなかやるのです」
　微笑みながら猫じゃらしの動きを速める。くろまめは連続で猫パンチを浴びせた。興奮は頂点に達し、唸り声を上げて飛び掛かった。
　その様子をスノウはそわそわしながら見ていた。弟を見守る姉のような態度に美咲紀は満面の笑みを浮かべる。
「スノウはくろまめのことをちゃんと考えているのです。とても偉くて、おまけに可愛いからナデナデするのです」
　片手で猫じゃらしを操る。残った手でスノウの頭を撫でた。
　――本当の齢はわからないですが、さすがはお姉さんのスノウなのです。拾ってきた時とは見違えるくらいに綺麗に、とても可愛らしく育ってくれたのです。くろまめとは仲良くしているみたいでママは嬉しいのです。
　最初は心配だったのです。あとから拾われてきたくろまめと仲よくできるのかなって。今でも少し気になるのです。でも、大丈夫ですよね。
　スノウに目で語り掛ける。
『どうしたの？』
　何かを感じ取ったのか。スノウは少し頭を傾けて聞いてきた。
　美咲紀は猫じゃらしを床に置いた。くろまめは踏ん付けて誇らしげに胸を張る。満足したのか。スノウの近くで丸くなった。
「スノウとくろまめは仲良しですね」
『つかれた、ねむい』
　くろまめの目は閉じそうになり、頭が不安定に揺れる。
『ほっとけないの』
　スノウはくろまめに身体を密着させた。
　二匹の猫は同じような姿で眠りに就いた。
「安心して、ママも、眠くなったのです……」
　美咲紀はぱたりと倒れた。自身の腕を枕にして横向きに眠る。丸まった姿は大きな猫のようであった。