賑わう通りを少し離れた路地裏に女の子がしゃがんでいた。足元にはサバトラ柄の子猫がいる。腹部を摩られると甘えた声で鳴いた。
慣れた手付きでスカートのポケットから煮干しを取り出す。目にした子猫が跳び付いた。
「食いしん坊なんだから」
子猫は鳴きながら煮干しを齧る。女の子の明るい表情が少し陰った。
「なんとなく態度でわかるけど、本当はなんて言ってるの?」
「煮干しが美味しいって。いつもくれるあなたのことを好きみたいだね」
「え、だれ?」
女の子はしゃがんだまま、後ろを向いた。
銀髪で目の細い男性が立っていた。白い着物姿が目を引く。
「お兄さん、ネコの言葉がわかるの?」
「これを耳に付けているからね」
男性は自身の耳を指差す。幅が一センチ程のイヤーカフスが耳の縁に嵌っていた。単純な作りに見えて、よく見ると猫の耳のような突起がある。
「耳にネコがつかまってるみたい」
「欲しいなら、あげるよ」
「ちょうだい! でも、自分では付けられないかも……」
縋るような目を受けて男性は安心させるように笑った。
「付けてあげるよ。どちらの耳がいいかな」
「えっと、じゃあ、こっちで!」
立ち上がって右耳を上に向ける。男性はイヤーカフスを上部に取り付けた。
「お兄さん、ありがとう!」
女の子は嬉しそうに飛び跳ねると、早速、猫の頭を撫でた。興奮して少し力が強くなる。
『ちょっと、痛いよ。もう少し優しくしてよ』
猫の不機嫌な声に女の子の手が止まる。
「今のが、そうなんだ! 本当にネコの言葉がわかるよ!」
「よかったね。だけど、効果は一日程度だから……聞いてないね」
女の子は満面の笑みで猫を抱き締めていた。小さな頭に夢中になって頬を擦り付ける。
男性は目を細めたまま、その場を離れた。歩きながら着物の袖に手を入れて巾着を取り出す。口を緩めると飛び出した物が掌にこんもりと山を作った。猫を模したイヤーカフスである。
「猫好きの人に届けばいいね」
軽く握った状態で額に押し付けた。唇が微かに動いて瞬時に上空に解き放つ。
イヤーカフスは一直線に空を目指し、遙か高みで意志を持つかのように方々へと飛び去った。
偶然、一部始終を目にした
桜庭 円は歓喜の表情で拳を固める。
円は弾けるように駆け出した。狭い路地裏を抜けて大通りに飛び出し、瞬時に空を見上げる。
「見失ったかー」
諦め切れない赤い瞳が辺りを見回す。足は自然に前に出た。早足となり、イヤーカフスの行方を探す。
――銀さんの
不思議アイテムは絶対に欲しい! 一日でもいいから猫の気持ちを知りたい!
加速する願いが円の全力の走りを引き出すのだった。
桜庭 円さん、ガイドに登場していただき、ありがとうございました。
当シナリオに参加された場合、ガイドに縛られず、自由にアクションを綴ってください。
今回は猫です。日溜りで猫がニャー。民家の塀に座ってニャーニャー。猫パンチの応酬で激しく鳴く時もあります。
鳴き声の意味を知りたいと思いませんか? 知りたいですね? はい、知りたいですよね!
そこでイヤーカフスです。耳に装着すると猫の声が理解できます。愛おしさが倍増します!
少し興奮が過ぎました(深呼吸)。落ち着いたところで詳しい情報を書いていきます。
=^^=猫を模したイヤーカフス=^^=
・イヤーカフスは様々な場所に飛び散った(例:ポケットの中、自動販売機の釣り銭口、自転車のサドル、ets)。
・イヤーカフスに手で触れた時、「プレゼントです」と男性の声が頭の中に聞こえる。
・イヤーカフスは耳に装着して、初めて猫の声を理解できるようになる。PCが猫の言葉を話せるようにはならない。
・猫の声を理解できる期間は一日程度。効果がなくなると普通のアクセサリーとして利用できる。
NPC
・油屋 銀(あぶらや ぎん)
妖術に長けた狐。人前では若い人間の男性に化けている。
銀色の髪に細い目が特徴。細身で身長は百八十に近い。
人に対しての好意と悪戯が半々で過去にも行動を起こしている。
(参照先:小さな夢を抱いて、財布が落ちている!?)
※アクションで希望すれば出会えます。他のNPCは指定できません。
説明は以上になります。
対象の猫はペットでも、野良猫でも構いません。
アクションで色々と猫の気持ちを想像して書いてください。
招き猫となって皆様の参加をお待ちしていますにゃ~。