【星幽塔】最終決戦！すべての希望に火を灯せ！｜リアクション

【星幽塔】最終決戦！すべての希望に火を灯せ！

【緑の扉】分裂する狂気

　かくして、竜は地に墜ちた。
「ちょっとォ……しっかりしなさいよォ……このポンコツトカゲ……早く空に戻りなさァい……」
　影の少女が、不愉快そうな声をあげて、ドラゴンザレスの背中を蹴っている。
「チャンスだ、仕掛けるぜ！　あわせろ、シダぼん！」
「ヴァン！　影との決着、ここでつける！」
　千載一遇の好機に、鎌八まもるがシダ美穂戸を促しながら愛馬の腹を蹴る。
　と、そんなまもる達からドラゴンザレスを庇うように、残り六匹のミニドラゴンザレスが飛来してくる。
　ドラゴンザレスよりもひとまわり小さい身体から、相応のサイズの黒い火の玉を発射される。
　だが、まもるは構わず突っ込んだ。
「まもる！　危ない！」
　シダの声が響く。
　だが、まもるはその声すらも風とともに走りぬけて、

「おっと！　そんな攻撃にゃ当たらないぜ！」

　次の瞬間、ろっこんで発射した無数の蜘蛛の糸を廃墟の建造物に絡みつかせて、立体的な軌道でそれを回避しながら二挺拳銃を乱れ撃った。
『!?!?!?』
　アクロバティックな機動に、ミニドラゴンザレス達は目を剥いて驚く。
『……あ……あんた達……！　もっとしっかり狙いなさいよォ……！　このままじゃアタシピンチじゃなァい……！』
　影の少女が地団太を踏んでいると、そこにまもるが切り開いた突破口を駆け抜けたシダが踏み込んでくる。
「チョーイ　オーイ。近くで見る。すごくでかい……！」
　驚きに目を瞠りつつ、ボビナムの構えをとりつつ突っ込んでくるシダに対し、打って出たのは影の少女だった。
『仕方ないわねェ……ちょっとだけ……あたしが時間を稼いでアゲル……』
　余裕の表情でやってくる影の少女に、シダは連続蹴りを叩き込もうとする。

「一人。いい度胸。シダ　ダダ　ダダダ！」

　馬の下半身から放たれる強烈な蹴り。
　だが、それを影の少女はどこからともなく取り出した盾で防ぐ。
『キヒヒッ……！　お褒めにあずかり嬉しいわァ……！　でもォ……いつからアタシが一人と錯覚していたのォ……？』
「……っ！？　チョーイ　オーイ。数。増える。聞いてない！」
　驚きに目を瞠るシダ。なんとシダの目の前で、少女の影が複数に分裂し始めたのである。
『キヒッ……！』
『キヒッ……！』
『キヒヒッ……！』
　特徴的な、狂気に満ちた笑い声が、時間差で不揃いな輪唱曲を奏でる。
（コン……。この声。気持ち悪い）
　顔をしかめつつ、シダはとっさに少女の数を数える。モッハイバーボン（１、２、３、４）。計４人。
（ちょっと……ピンチか！？）
　それぞれ剣・槍・銃・盾を持った四人の影の少女が全包囲からシダに迫る。
（……困った。逃げ場ない。よける。できない……！）
　さぁっと血の気が引いたそのとき、頭上からまもるの声が聞こえる。
「……シダぼん！　変身解いて俺に掴まれ！」
　まもるが、蜘蛛の糸を駆使し、唯一の回避可能な方向である上から手を差しべたのである。
「……！　ヴァン！　わかった！」
　とっさに変身を解いて、シダがその手に掴まる。
　ふわり、シダの身体が宙に浮き、
『『『……きゃァ！？』』』
　その真下で近接武器を手にした影の少女（×３）が正面からぶつかり合う。
『あらあらァ……。なかなかやっちゃうわねェ……。でも、アタシの狙いからは逃げられないよォ……！』
　唯一、銃を持った少女の影だけが、衝突を免れて、背後からまもるとシダを狙う。
　だが、それを遮るように、双円型のシールドを手にした三夜深夜子が少女の前に立ちはだかる。
『もォ……アンタもアタシの邪魔をするのォ……？』
「まあ、そう言わないで。私と少しお話しましょ？」
　そう言って柔和な笑みを浮かべる深夜子の瞳には、少女の正体を解き明かそうとする怜悧な光が宿っていた。