【星幽塔】最終決戦！すべての希望に火を灯せ！｜リアクション

【星幽塔】最終決戦！すべての希望に火を灯せ！

【赤の扉】左翼の進撃

　敵も味方も部隊単位での移動を始めた。
　敵は、黒の幟をなびかせながら、中央のアクラブ隊を残して前進する。
　味方も、中央前線の死神隊はじめ、中央部隊は動かない。
　先んじて動くは騎馬部隊。右翼端のスハイル隊、ティクス隊、左翼側の恩恵隊、星の暁隊だ。
　これにより星獅子軍は、敵に対して左右がせりだした鶴翼の陣形になってゆく。

　まもなく、左翼の恩恵隊の先頭が、突っ込んできた影アスワド隊と交戦を始めた。

「蠍に警戒！　各小隊は隊列を守れ！」
　甲冑に身を包み、馬上から指示を飛ばす久隆は、もともとの筋肉質な肉体と強面も相俟って、まるで歴史書に登場する武将のような風格がある。恩恵隊に配された者たちは早くも、彼の誠実な人柄と的確な指揮ぶりに、信頼を寄せているようだ。
「旦那様の部隊を援護するわよ～」
　理沙がお玉風の杖を振るえば、恩恵隊の後方からついてきた星の暁隊は、少しずつタイミングをずらしながら遠距離魔法攻撃を仕掛はじめた。風の矢や氷の矢に当たった敵兵は、ひとり、またひとり、と倒れる。
　が、如何せん、敵の数が多い。恩恵隊と星の暁隊を合わせても二百、影アスワド隊は五百だ。
　さらには、敵将、影アスワドが一騎当千の動きをしていた。
　兎の耳をした戦闘民族ヴォーパルバニーの少女の影は、本体同様クークゥルとヴォーパルという二本の刃物を巧みに振り回し、容赦なく躍りかかってくるのだ。息を呑む間に先頭の騎馬小隊がなぎ倒され、馬たちが恐れ上がっていななく様を、久隆は目の当たりにすることとなった。
「強い……！」
　久隆は部隊に後退を指示した。
　しかしこの後退には思惑もあった。久隆は、味方アスワド隊の到着を待っていたのである。

「ケラ・ガ・リブ・ダゥ・ラービ、ハー・ヴィ・ティ・トゥル！」
（秤の神リブよ黄昏兎ラービよ、ボクの身体に宿りて真を知らしめよ！）

　アスワド・クロノワールは草むらを走りながら一族の言葉を唱えると、顔に赤い塗料で文様を描く。
　戦に赴くヴォーパルバニー族の神聖な儀式だ。
　見据えるは、破壊神のように踊り狂う自らの影。
「偽物のボク、許せない……！　一族の評判落とすつもりだな！　絶対に仕留める！　フー！　フー！」
　たしたしと足を踏み鳴らし、怒りを沸点まで押し上げる。
　迂回しつつ様子を見ながら影アスワド隊の横っ腹に回り込んだアスワド隊は、恩恵隊が下がると同時に敵部隊に突撃した！
　左手にクークゥルと剛爪の篭手、右手にヴォーパルを握って、アスワドは邪魔者を雑草のように刈りながら疾走する。そのルビィのように赤い瞳には、影アスワドしか映っていない。
「これは聖なる戦、勝負だ偽物っ！」
　アスワドが跳ぶ。影アスワドが受ける！
　二対のクークゥルとヴォーパルは、互いに十字に切り結ばれ、ガキンッと熱い火花を散らした！！