【星幽塔】最終決戦！すべての希望に火を灯せ！｜リアクション

【星幽塔】最終決戦！すべての希望に火を灯せ！

【赤の扉】右翼の進撃

　十二支団は、第一階層にアジトを持つ盗賊団である。
　盗賊団といっても主なターゲットは悪徳商人で、自分たち曰く「アットホームな職場」だ。
　名前の由来は、とある屋敷で見つけた絵本。年のはじめに神様のところへ挨拶へ向かう物語で、十二の動物が登場していた。団長はネズミの獣人、ティクス・ソル。負けず嫌いで情に厚く、頭も切れる。それでいて楽天的で、「何とかなるさ」と笑っていられる人柄が、団員たちに愛される所以であった。

「敵の遊撃部隊は将が盗賊の影か。なら正面から数で叩きに行っても逃げられるかもな」

「あ？　なんで正面からだと逃げられるんだ団長。とりあえず突っ込んで暴れちゃだめなのか？」
　団員のひとり、猪突猛進タイプのイダス・アグリオスが唇を尖らせる。
　子どもっぽい仕草――なにしろ三百歳以上年下だ――を愛らしく思いつつ、ティクスは逆に尋ねた。
「なぜって、イダス。お前なら任務中に勝てそうにない人数に囲まれたらどうする？」
　イダスは、んー、と考えた。
「勝てねえ時はそりゃ逃げろっつわれてるし、全力で逃げて立て直すけど……」
「そう、だから」
　ちょっとひっかけてみるか、とティクスは口の端を持ち上げる。
「なるほど？」
　イダスは首を傾げつつも了解した。最終的には団長に従うのが団員だ。

　ティクスは自らの隊を二つに割った。三百のうち二七十は自分に従うよう指示する。
「コル、お前もだ」
　名指しされた虎の獣人、コル・ティグリスは鷹揚に頷く。
　

「ああ」
　ティクスの指示の的確さをよく分かっている短い了解。ティクスに任せる。いつも通りだ。

　ティクスはティクス隊の残りの三十人について、イダスを分隊隊長として、スハイル隊とともに指定の場所で待機するよう伝達した。
「オレが分隊長か！！　って！！　待機かよ！！」
　突っ走りたくてたまらないイダスは地団太を踏んだ。
「なんで！」
「なぁに、ちょっと『弱者』になってやろうと思ってな」
　ティクスは、控えめに言って悪巧みしている顔で笑った。

　別動隊の指揮を任されているスハイル・アルムーリフは、イダス分隊と合流すると、肩を並べて進軍をはじめた。スハイルは齢三百歳を超えた猿の獣人だ。ほしびとの多くがそうであるように、彼の外見年齢は実年齢よりずっと若かった。すこし耳の尖った、二十歳ごろの線が細く美しい青年。酒場で会ったら女性たちはうっとりと彼を見つめる事だろう。星幽塔に来てティクスに拾われたが、もとは呪術・宗教的な舞踊を伝える遊牧民で自身も踊り手であったという。
「私たちは先行し、影フォルカ部隊を団長達の隊が誘導場所に連れてくるまで、隠れて待機です」
　スハイル隊は全員が忍布を所持していた。薄くて軽い漆黒の布で、身に纏うことで表面の色がその場に適した保護色になる。頭からすっぽりかぶれば、遠目に見つかることはないだろう。
「くっそー、早く暴れたいぜ！」
　イダスはぶつぶつ文句を言いながら、スハイルに倣って忍布を被る。
　こうしてスハイル隊とイダス分隊は、戦場を駆ける人々からは見えづらい、隠密部隊となった。
　この作戦はのちに、戦局を左右することになる。