５０００兆円貰った！｜リアクション

５０００兆円貰った！

◆華の美少年屋敷
　眩しさで目が潰れてしまいそうだと、形容する人もいることだろう。星ヶ丘に在る家の廊下で、仕立ての良い執事服を見に纏った美少年と美青年が走り回っている。この家の主は今朝越してきたばかりのようで、彼らは荷解きと掃除に駆り出されていた。何分広いゆえ忙しそうではあるが、彼らの顔に不満の色は見えない。なにせ、時給１万。時給１万である。庭には薔薇が植えられており、美少年がその世話をする様といえば中々に絵になるものだった。
　映画か何かであればクラシック音楽でも流れていそうな風景の中、窓の外に主人の姿が見えたと知るや、家に居る全ての美少年が玄関に出て彼女を出迎えた。

「お帰りなさいませ、お嬢様！」

　彼らが傅くのは、小野田万里。彼女は自分の前にずらりと並ぶ若い美貌に満足。
　３２歳フリーター、小野田万里。使用人を雇うどころか、星ヶ丘に家を持つことすら厳しいはずの彼女がなぜこのような暮らしを手に入れることが出来たのか。それは――

「受け取ると何かの義務とか不利益とかが発生するとか、そういうのってないのよね？」

　５０００兆円。記帳されている莫大な額を見て、万里は真っ先に裏を疑っていた。万里とて、いい大人である。ウマい話に易々と乗る気はない。しかし黒服は慣れたものか、ただ首を横に振った。

「ない……？」
「我々は皆様に幸せになってほしいだけです」

　爽やかな笑顔に、疑う気も失せたようで。万里は言質も取れたところで！　と５０００兆円を持ってリムジンを降りた。さて彼女が最初にしたことといえば、バイトを辞めることである！　５０００兆円という一生遊んで暮らしても余るほどの莫大な不労所得、こんなものを手にしてしまったら、もう働く気も失せるというもの。

「もしもーし？　万里ちゃんでーっす！」

　何コールかかかって、繋がったとみて万里は用件を伝えた。語尾にハートマークでもついていそうなほど媚びた声で、相手に声を出させず、有無を言わせず。それが肝腎である！

「いきなりだけどバイト辞めるんでよろしく」

　２０分後にシフトが入っているが、それは関係ない。だって５０００兆円があるのだから！　何か請求されたとしても、それで払えばいいことである。相手が何か言う前に切った電話。着信音が鳴っても無視無視。
　次に万里が向かったのは、星ヶ丘エリアを中心に扱っている不動産屋である。富裕層向けであるせいなのか、品の良いインテリアが目立つ。

「使用人つきの家くださーい！　金に糸目はつけないので、使用人は全部美少年でお願いします」

　使用人付き、は半ば冗談であるものの、星ヶ丘に居を構えることは伝わったようで社員がいくつかサンプルを出してくる。万里は勧められるまま、ニコニコして現金で買い上げた。社員は万里の身なりに合わないその行動にどこか疑う様子もあったが、受け取るものは受け取った以上、黙って鍵と書類を渡して戻っていった。

　引き払った家の汚さを思い出しつつ、今の住居を見て、傅く美少年を見ては、ああ幸せと万里は思う。
　――後は、慎み深く適当に生活すればおっけー……！

「ああ、申し訳ありません小野田様！　言い忘れていたことが一つだけ！」

　しかしその幸福は、突如外に現れた黒服によって邪魔される。今更いったい何の用なのか、万里は訝しみつつ、外に出た。