５０００兆円貰った！｜リアクション

５０００兆円貰った！

◆乙女の休日
「ごせん、ちょー、えん」
「ええ！」

　本居陽毬は記帳された額を復唱し、通帳から顔を上げた。

「5000兆円！？」
「そうです！」

　にっこりと頷く黒服を見ても尚、陽毬は喜びもせず、驚きもせず。ただ首を傾げるだけだった。
　――なんか桁が多すぎて、実感もわかないし、感動もわかないなー？
　ぼんやりそう思いつつ、それで何がどのくらい買えるのか、どれほどの価値になるのか、計算する陽毬。５０００兆円ってことは――

「な、なんですって！？　コンビニ売りの1個20円のニャロルチョコが250兆個買える！？　マジで！！？」
「その通りでございます！　良い一日を！」

　陽毬は早速リムジンを降りた。お金がなくて普段は買えないあれやこれや、全部買えるとなれば何から買おうか悩むもの。
　ぐー……。
　その時陽毬のお腹が鳴った。時は正午、お昼ご飯時である。もとより色気より食い気な陽毬は、日頃行きたいと願っていた高級焼き肉店を思いつく！

（お金いっぱいあるし、好きなもの買ってもいいよね？）

　じゅう……。店員の焼く肉が次々と陽毬の口へ。とろけるような美味しさを堪能したら、次はデザート。
焼肉屋を出て、最近話題のカフェへ向かった陽毬は、メニューにあるケーキを全て頼む。店員は驚きを隠しつつ洒落たクロスのかかったテーブルへケーキを並べていく。生地の上に乗ったカラメルやグラッセが艶々と光って宝石のようだ。植物や動物を模ったデザインのものもあり、見ていても楽しい。

「いただきまーす！」

　甘いものは別腹だよねと、陽毬は幸せそうにぱくぱく、もぐもぐ。その健啖ぶりを発揮した。通りかかる店員や客が、陽毬とテーブルいっぱいに並んだケーキとを見て目を白黒させている。全てを味わって幸せいっぱいの陽毬。次は……と街を見回すと、映像広告で最近話題の恋愛映画の予告が流れる。主人公とヒロインのキスシーンだ。甘酸っぱい雰囲気の中、それは途中で断ち切られた。予告の常であるが、続きは映画館で！　ということだろう。陽毬は映画館へ駆け込んだ。

「はぁ……」

　そうこうしていれば、もう夕方。夕日が差し込む中、帰りに寄った海鮮食堂で、陽毬は映画の余韻に浸っていた。話題通り最初から最後までドキドキしっぱなしで、キスシーンには思わず歓声を上げそうになったくらい。良かった。とても良かった。

「おまちどおー！」

　そうしていると、陽毬の前に頼んでいた海鮮丼が届く。続いてイクラ丼、鉄火丼。新鮮なウニが山と乗ったそれを口に含むと陽毬は幸せに包まれる。これからはこんな食事が毎日食べられる！？　そんなことも考えちゃったりして――

「あー、楽しかった！」

　陽毬は冷蔵庫にコンビニスイーツを入れ終わると、ベッドに座って伸びをした。ちょうど配送を頼んでいた漫画たちも届いていて、すぐさまそれを開けて本棚へ。スイーツをもう一度眺めては、もうちょっと買っておこうかな、そう思いもしたが――

「明日の分は明日買おう！」

　それでよしと、陽毬は漫画を広げて読み始めた。

「さて漫画読もう！」

　大人買いした漫画たちは想像以上に面白く、気付いたころにはもう深夜。
もう少し、もう少し読んでいたい――と思いながらもこくり、こくりと陽毬の首は上下に動く。そのまま重い瞼を閉じてベッドに崩れ落ちた。