５０００兆円貰った！｜リアクション

５０００兆円貰った！

◆円満具足の無聊
　窓の外には星ヶ丘の爽やかで異国情緒ある風景が広がっていた。一人が泊まるにはあまりにも広すぎるその部屋は空調管理が行き届いており、快適な温度を保っている。キングサイズのベッドはふかふかで寝心地が良く、どんなに神経質な者でもぐっすりと眠れるであろう。
　そんな超高級ホテル『ステッラ・デッラ・コリーナ』のスイートルーム。北里雅樹は退屈そうに外の景色を眺めていた。

「あー、金がいくらあっても全然楽しくない。なんでだろ？」

　独り言が虚しく響く。しかし、退屈になってしまうのも無理はないだろう。この切り離された世界の中では、望めばなんでも叶ってしまう。
　――そう、５０００兆円を使えば。

　雅樹は元々ある事情により猫鳴館に住んでいた。しかしその時のことなど、今となっては思い出したくもない。
　雅樹の住んでいた部屋は年中湿気でじめじめと嫌な空気が漂っており、昼だというのにも関わらず薄暗く、その外観も相まって幽霊屋敷のよう。空調のくの字もない室内といえば夏も冬も最悪としか言い様がない。夏は蒸し風呂のように熱気が篭り、冬は凍えるような寒さとなる。雪など降ろうものならもはや冷凍庫だ。

　雅樹が５０００兆円を貰ったのは、そんな部屋からやっと引っ越し出来たと一息ついた頃だった。雅樹の意思など鑑みず、有無を言わさず渡された５０００兆円。
　これだけあれば最早猫鳴館で我慢することもない、と雅樹は思い切ってステッラ・デッラ・コリーナを丸ごと買収したのだ。そして、その一番良い部屋を見事自分のものに。引っ越しを終えて荷解きもスタッフ任せ。雅樹はごろごろとベッドに転がってテレビを見ていたが――

「次のニュースです」

　淡白なニュースが告げたのは、雅樹の好む菓子が生産中止になるという事実。雅樹はすぐにそのメーカーへ電話し、そのまま買収。生産中止になる予定の菓子を自分専用に作らせることを約束した。ついでに、雅樹の部屋に在庫ごと運ぶことも承諾させる。
　ニュースにも飽きた雅樹はチャンネルを変え、アニメ鑑賞と洒落こんだ。そうしているとふと思い立ち、各出版社やゲーム制作会社、放送局へ電話する。そしてこちらもまた買収して、最先端のゲームやコミックを優先的に見ることが出来るように約束した。
　大企業を買収、買収と、こんな使い方をしていたら、あっという間にお金が無くなってしまう――と思いきや、流石５０００兆円。雅樹は残額を参照するが、それでも山のように残っている。
　さて、どうする？　雅樹は頭を回した。さりとて何か名案が思い付くわけでもなかったので、雅樹はあてもないまま外に出る。

「ここにあるもの、全部」
「あらまあ……大人を揶揄うんじゃないわ、って、ええっ！？」

「現金で」
「高校生？　買えないでしょ。お父さんかお母さんに話を……ひっ！？」

「やだぁ」
「マジで５０００兆円持ってんじゃない？」
「すっごーい！　お金持ちなフレンズなんだね！」

　街に出た雅樹は目に付いた店の物を買い占め、遊技場とあらば遊び倒し。札束を広げられて目を点にする大人たちを横目に金で出来る大凡の事はやったが、それでもまだ黒服に渡された莫大な金は残っている。しかし、お金を使えば使うほど雅樹の心の中は虚しさと退屈が支配した。
　浪費にも飽きた雅樹はホテルに戻り、退屈そうに外を眺める。好きなお菓子を口に入れても、なぜだろう、以前のように心が動くことはない。

　明日になれば、この退屈も癒えるだろうか――そう考えながら、雅樹は瞳を閉じた。