cafe眠り猫へようこそ！｜リアクション

cafe眠り猫へようこそ！

　少し早いカフェタイムをと、サキリ・デイジーカッターは《cafe眠り猫》へ。
　最近発見した気に入りの店は、今日もふくよかなパンの香りに満たされていた。
（さて、今日はどの席に座ろうかな）
　そんなことを思いながら、店内を見渡す。
　と、赤の双眸に見知った姿を見留めて、サキリはそちらへと歩み寄った。
「やあ、奇遇だね」
　声を掛けた相手は、犬杜初。
　端っこの席で紅茶を嗜んでいた初は、知った顔の登場にくるりと目を丸くした。
　驚いた様子の初へと、サキリは柔らかく笑み掛ける。
「ここは何度か入った事があるお気に入りの店でね。良かったら一緒にどうかな」
「……いいわよ。どうぞ」
　向かいの席を示されて、サキリは「有難う」と席に着いた。
　注文は、スコーンとストロベリーティー。
　迷いなくオーダーを済ませたサキリの様子に、初が声を零す。
「それ、あんたのお勧め？　紅茶は一緒のやつだけど」
「ああ、ストロベリーティーは本日のお勧めだからね。パンは、割と何でもいけるよ」
　そんな話をしているうちに、サキリの元へと注文の品が届いた。
　素朴な、けれどほっこりとしたスコーンと、それを彩る宝石のようなジャム。
　それらを目にした初が、「ういもそれにしようかなぁ」と呟く。
　初が追加の注文をする前で、サキリはストロベリーティーを優雅に口に運んだ。
「これは大当たりだ。凄く美味しい」
　そう微笑んで――けれど次の瞬間には、記憶の花がぶわりと脳裏に咲く。
　思い出したのは、クローネとの最後の戦いと、彼女の末路。
（……僕は、フツウを守る為にクローネと何度も戦った）
　サキリが初と出会ったのにも、クローネの存在が絡んでいた。
　長きに渡った戦いに、先日、ようやく着いた決着を思う。
（僕にとってクローネはフツウを乱す敵だけど、初にとっては恩人だ）
　その最期は伝えるべきだと、サキリは判断した。
　気付けば、初の元にもスコーンの皿が届いている。
　熱々のスコーンにジャムを付ける初へと、サキリは声を投げた。
「……もう知っているかもしれないけど、クローネはミルたまランドで倒された」
　ぴたりと、初の動きが止まる。
　そこに動揺はなかったが、顔からはさっと色が消えた。
「……知ってるわ。知ってるって言っても、噂を聞いただけだけど」
「そうか……僕はその時、直接戦った者の１人だ。初から恨まれる資格は十分ある」
　殴るでも殺すでも好きにしていいよ、と紡がれた言葉に、初がハッとサキリを見る。
「ただし、復讐するなら僕１人だけにしてくれ」

「それで……憎しみを忘れて欲しい」
　そう前置きをして、サキリはあの場所で起こった、己の知る限りのことを語った。
　誤魔化しは一切なしで、初へと事実を手渡すサキリ。
　全てを伝えた上で判断は初に任せよう、との考えだ。そして、暫くの後。
「……復讐なんて、するつもりないわ」
　初は、緩く首を横に振った。
「クローネ様にもう会えないのは辛いけど……どうしたらいいのか、わかんないけど……」
　それ以上は、言葉の形にすらならないようだと見て取って、
「なら、とにかく色々やってみるといい」
　と、サキリは凪いだ声で紡ぐ。
「一閃さんの仕事を手伝うのでもいいし、ほら、この前みたいに我慢大会でも」
「……それで、どうするの？　どうなるの？」
「そうやって、自分の居場所を作るんだ。その為の努力であれば、僕は喜んで手を貸すよ」
「居場所を作る為の、努力……」
　自身が発した言葉を繰り返す初の前で、サキリはまた紅茶を喉に流した。
　そうしてから、真っ直ぐに初を見遣る。
「とりあえず、新しいクラスには馴染めているかい？　まずは友達を増やす所から考えてみてはどうだろう」
　他にも言いたい事があるなら僕で良ければ幾らでも話を聞くよ、と、双眸を細めるサキリ。
　少しだけ泣きそうな顔をして、初は「ありがと」と小さく笑った。