Fashion In the Spring｜リアクション

Fashion In the Spring

■歯車の魔法
　佐藤瀬莉という少女を語るのに、懐中時計を外すことは出来ない。
　ある日の青空の下、フリーマーケットでアンティーク品の時計に出会って以来、彼女は歯車に夢中なのだ。
　そんな彼女にとって、ファッションとはやはり、懐中時計を中心に置いたコーディネートになってくるものである。

　ファッション。コーディネート。オシャレ。
　言い方はともかく、人というものは何か一つの要素を中心において身なりを整えるものだ。
　例えば貴重とするカラーだったり、全体的なシルエットだったり、靴や時計といった小物だったりだ。
　お金持ちのおじさんが、金ぴかの時計となんとかっていうブランド革靴をいかに綺麗に見せるかでスーツを選ぶことがあるように……ファッションバランスには中心があるのだ。
　そういう意味では、瀬莉の懐中時計中心のファッション選びはそう珍しいことではない。１１歳の少女にしてはかなり奇抜というか、昨今の世ではそうそう見かけない趣味ではあるのだが。

「こういう服なら、似合うかな……」
　瀬莉が鏡に映したのは、現代ではあまり一般的で無い装いだった。
　昭和モダンよりちょっと前、大正モダンにあたる服である。だからか、和装の雰囲気もちょっと混じっていた。
　和装に懐中時計のハマり方は、コロッケにジャガイモを入れる感覚と似ている。
　海外じゃあヘンかもしれないが、西洋文化が流れ込むにあたって古来の文化と混ざり合い、新定番として日本に定着したモデルである。もっというと、懐中時計自体にもそういうフシがあるので相性はよいのだ。
「うん、いいかんじ」
　瀬莉はほくほくとした顔で、懐中時計をぱたんと閉じた。

　余談になるが。
　世には懐中時計だけが真の時計でありデジタル腕時計なんてもってのほか、なんていう過激で堅固な姿勢で生きている猛者も居ると聞く。
　その点、瀬莉は夢とあこがれから懐中時計を愛している少女なので、別にデジタル時計も（なんならスマートホンのロック画面で時間を確認する人も）それはそれで良いと思っているクチである。
　なんなら、『なんちゃらウォッチ』とかいって腕時計式スマートガジェットが出たとき、懐中時計タイプもあればいいのにと思ったくらいである。
　……ほんとにあればいいのに。一周回って、あのカチッと閉じる貝殻式金属カバーはタッチパネルと相性いいと思いませんか。
　しかしそこは１１歳。懐中時計だけでも身の丈を超えた宝物である。
　アクセサリーはもっぱら彼女の手作りだった。
　例えば歯がちょっぴりかけた歯車を加工したネックレスだったり、ブローチだったりだ。
　気に入った服にそんな小物をあわせて、瀬莉は改めて頷いた。
　お出かけの準備は整った。
　さあ、ねじをまこう。