Fashion In the Spring｜リアクション

Fashion In the Spring

■ひみつのファッションショー
　服を選ぶとき、人は豊かな気持ちになれる。
　自分が沢山生まれるような、いろんな可能性を見るような、そんな感覚があるからだ。
　桜月にとっても、服選びは楽しいものだった。
　真っ白いワンピースを着た自分。
　ゴシック調のドレスに包まれた自分。
　赤い和服を着た自分。
　そんなこんなで、月はけっこうな服持ちだったりした。
　とはいえ、甘い物と可愛い服には限りが無いもので。
「新しい服、着てみようか……」
　ひょんなことから手に入れたあれやこれやの服を前に、月はわくわくした気持ちでいた。
　全身をうつす姿見の前に、立つ。

　まずはデニムシャツとジーンズの組み合わせだ。
　大体言葉のイメージ通りの、しかしやや明るめの色をしたデニムシャツに、対して色の濃いジーンズを合わせてみる。
　よく雑誌でみかけるファッションだが、ホントにやると難易度の高い組み合わせである。下手すると作業着みたくなっちゃうし、体型によってはサルベットジーンズのほうが百倍いいやってなるのだ。特に月は後者のほうだったようで……。
「む、胸が……きついな」
　腰回りや肩幅に比べてバストサイズが広い月には、なかなかキツい装備だ。よくマンガとかでワイシャツの前部分がミチッて開いてることあるけど、あれはリアルでやったらダメなやつだ。
　というわけで。
「前だけ開けば、いいか」
　よく切るストレッチ素材の白いシャツを下に着て、上にデニムシャツを羽織る。
　ただ羽織るんでもいいが……胸元以外のボタンをあえて閉めてみた。
　なんかすごいことになった。胸元が何倍も強調されるというか、やけにセクシーになってしまった。
　慌ててボタンを外す月である。

　続きまして。
　チェックのシャツにショートパンツ。ここにサスペンダーとストッキングでバランスをとりつつ、帽子を被ってトータルバランスを整えてみる。
　先程サルベットジーンズのほうが百倍いいみたいなことを言ったのは、月の胸が人並み外れて大きいからだが、こと今回においてはそれがいい方に働いていた。
　逆に胸が小さいと過剰に子供みたくなっちゃうし、なんなら帽子とシャツのせいで遠足の子供みたくなってしまう……のだが、体型が影響して幼げな色気がグッと出るようになった。
　これはアタリだ。
「じゃあ、次は……」
　手に取ったのはカッターシャツ。
　正装のふりした大学生じゃあないが、シャツ・スラックス・ネクタイにベストというおきまりの組み合わせをやろう……としてちょっと横道にそれてみた。
　というのも、シャツの裏側に青白チェックの柄が入り、細い紫のネクタイをつけ、白いスラックと黒い皮のベストを着てみた次第である。
　思ったのとだいぶ違ったしなんか新宿マフィアっぽくなったが、これはこれでアリである。デニムシャツの時と違って胸元に余裕を持たせているので、かなりシックに決まった感があった。
　この調子で片っ端から細かく試していきたいところだが、しゃくの都合もあるのでちょいちょい巻いていこうと思う。
「うん、いいね。今夜はこれで行ってみようかな」
　そう言いつつも、去年の春物を取り出してみる。
　ワンピースが大半だ。
　月の体型（ざっくりいって細身で巨乳で幼顔低身長）だとワンピースに落ち着いちゃいがちだったようだ。ワンパターンはよろしくない。
　オフショルダーやノースリーブの服を取り出し、上下の組み合わせを試せるようにしてみたい。
　と、ここまでやったら後は小物である。
　リボンやブローチ、ネックレス。そして忘れちゃ行けない靴やカフス。タイピンがあってもいいだろう。
　そしてうっすら化粧もしたいが……。
「それは、彼女に頼みたいな」
　ある人を思い浮かべ、うっとりと目を閉じる。
　会いに行くなら、何を着よう。
　春は始まったばかりだ。着ていく服は、山ほどある。

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