妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！｜リアクション

妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！

【月と太陽】

　月守輝夜と青木慎之介。今や周囲も認める、仲良しカップルです。
「グッモーニン、輝夜！　マイラバー！」
「おはよう慎之介く……あ、だ、だめだよ慎之介くん、こんな朝から。もう……♪」
　登校時に合流するなり、むちゅっと輝夜の頬へ唇を寄せた慎之介にはいくらか男子たちの辛辣な視線が突き刺さりつつも、ふたりへは概ねあたたかな声が寄せられます。
「今日もおアツいねー、おふたりさん！」
「慎之介くんってちょっと軽いけどイケメンだし、輝夜ちゃんは清楚な美人だし。ベストカップルよねー」
　そんなふうに言われると、輝夜はちょっぴりむず痒くなってしまいますけれど……でもそれも、今この瞬間の喜びには到底かないません。
「じゃ……いこっか、慎之介くん。遅刻しちゃうよ」
「おー！」
　だって大好きな彼と、晴れて恋人同士になれたのですから……！

　バスケ部の練習に精を出す彼を、輝夜はマネージャーとして見守ります。
　ほかの部員たちは、熱のこもった彼女の視線を見るに、
「アツいアツい。コートの温度が何度か上がったみたいだよね」
「ほんとほんと」
　なんて、からかわれてしまったりもしますけれど。すかさず慎之介はこちらを向いて、
「おーい、あんまり俺の彼女をいじめるなよな！　輝夜はデリケートなんだぜっ」
「はいはい。妬けちゃうんだから、まったくもう！」
　びしっとサムズアップして、ぱちり、ウィンク。
　何かあると必ず恋人である輝夜をかばってくれる彼の姿は、見とれるほどにカッコイイのです。
（だって……私の王子さまだもん）

　放課後も一緒に下校して、慎之介の部屋で、ふたりっきりの勉強会。
「試験も近いし、しっかり勉強して、赤点取らないようにしないとね」
「サンキュー輝夜、マイスイートハニー♪　ちょうど分からないところがあったんだよなー」
　机に脚を崩して座り、ぴったり肩と膝を寄せ合って。互いの心臓の音さえ聞こえてきそうな、この距離。
「留年なんかしたら、輝夜と一緒の高校に行けなくなっちまうもんな」
「……うん。頑張ろうね」
「オフコース！」

　勉強を終えて帰宅して、寝る前にはおやすみの電話をかけるのが、ふたりの日課です。
「今日も輝夜と一緒で、ファンキーな一日だったぜ！　明日もよろしくなっ」
「うん……あのね、慎之介くん」
「ん？」
　輝夜は……知っています。これが毎日繰り返されている日々の１ピースではなく、幸運がもたらした、儚い一日であったことを。
　目が覚めたら、きっと彼は輝夜の恋人ではなく、仲の良い友人に戻ってしまっているのでしょう。
　けれど不思議と、寂しくはありません。それほどに今日という日は、輝夜にとって楽しくて、嬉しかったのです。
「どうしたんだ、輝夜？」
「ううん……何でもない。それより、もう少しお話してていい？」
「イエス、もちろんだぜ！」
　今日のことを、彼がほんの少しでも、覚えていてくれたらいいな。
　一日が終わってしまうのが惜しくて、とろけるような彼の声をまだまだ聞いていたくて。月に向かって、輝夜は言葉を紡ぎ続けました。