妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！｜リアクション

妄想＜ウソ＞が現実＜ホント＞になるところ。それが、らっかみ！

【策士、策を手放すの巻】

　八神修の一途な想いときたらビタイチぶれず、どんなに過酷で珍奇な状況に陥ろうとも、揺らぐことなどありゃしないのです。
　大好きな七夜あおいのこしらえる、あの筆舌に尽くしがたい料理の数々も彼にとっては愛を試す試練にしかなりませんし、なんならちょっと本当に美味しく思えてきたほどです。慣れってすごいね！
　先日などは例によって例のごとく不思議な世界へ迷い込み、あおいがクマになってしまった時ですら、豪快な野性を発揮する彼女を眺めて思ったものです。あ、俺、あおいがクマでもいけるわ。全然いけるわ……と。
　そんな純粋なる彼の想いが、ようやくにして成就したのでしょうか？
「好き！　私、修君のことが好き……！」
　ふたりっきりの家庭科室にて、修によるスイーツ作りマンツーマン講習のさなかのことでありました。
「……あ、うん。夢だな、これ」
「えっ？　修君？」
　悲しいかな、いつだってクレバーなインテリタイプである修は瞬時に、悟ってしまいました。いつものやつだこれ、と。神魂による何らかの現象だこれ、と分かってしまいました。
　なぜならこんな状況は、彼がエイプリルフールの今日についたウソ、そのまんまだったからです。
「『あおいに告白される。彼女と夏の海で、恋人デートだってできちゃうんだ』……なんて。まさか、本当になるとは」
「どうしたの、修君……？　私のこと、キライ？」
　ちょっぴり背伸び。ずずい、と鼻先が触れそうなところにあおいの顔が近づいてきたところで……修は、考えるのをやめました。
「いいや。俺も、大好きだ！」
　夢でも幻でもいいや！　神さまありがとう！　と内心アホ毛の神さまへ感謝しつつ、彼はあおいの肩をぎゅうっと抱き締めたのでした。

　ぱっ。
　次の瞬間、ちりちりと肌に感じる、焼けるような暑さ。細めた瞳を貫くような、強烈な日差し。
「！？　どこだここ！？」
「海だよ？　一緒に遊びに来たんじゃない、ヘンな修君♪」
　くすりと笑ったあおいちゃん。気づくと彼女は可愛らしいタンキニ姿で、修もいつの間にやら海パンでした。
（……場面転換急すぎるだろ！）
　神さまはいまひとつディテールにこだわりのないタイプなのか、はたまた今日一日しか持たないこの現象、巻きでいかなきゃソンだよ～？　といったご配慮でありましょうか。
　ともかくふたりっきり、真夏の砂浜で水着デート！
「ほら、泳ごっ！　修君！」
　修の手を引くあおいは、ぎらぎらとまぶしい太陽へ向かって咲く、ひまわりのような華やかな笑顔を浮かべて誘います。
　彼女の朗らかなこの笑みが今、修ただひとりのために向けられているのです。
「……ああ、楽しもう。俺とあおいで、ふたりっきりで！　思いっきり！」
「うんっ♪」
　今日一日くらいは、クレバーでインテリな修でなくてもいいのかもしれません。すっぱり、考えるのをやめてしまってもいいのかもしれません。
（ああ、そうだよな。細かいことは、もういいや。だって……あおいがこんなにも、笑ってくれているから）
　手と手を取り合って。きゅ、ときつく指をからめて。
　ふたりは寄せる白波へ、砂を蹴とばし駆けていきました。