【暴け！　ＢＬ帝国の謎（１）】

　無限に広がる大宇宙……ではなく、太陽系の片隅にて。
　名だたる宇宙英雄を幾人も排出してきた、かの名門アーチャー家に連なるブリジット・アーチャー艦長は、眼下に見えるＮＥＫＯＪＩＭＡ星の調査を即断した。惑星上空へ到達した途端、艦内の優秀なクルーたちが次々と消息を絶ってしまったためである。
　第二次調査隊のメンバーにはブリジット艦長その人を筆頭に、科学士官の神野 美野梨、保安部員にしてちくわ係の新井 すばるが続く。
　転送装置に乗り込む三人。未知なる惑星、ＮＥＫＯＪＩＭＡ星の地表にて彼らを待つものとは……？



「宇宙提督にして英雄だったグランパの名前を汚さないためにも、この調査を成功させるのよ！」
　といった設定で、ブリジット艦長はノリノリです。レーザーガンを構えてきりりっ、カメラ目線でポーズをキメたりしております。
「みんな、レーザーガンの出力はパラライズに設定しておくのよ。なぜって無益な殺生は、宇宙艦隊規約に反するからね」
「レーザーガン……私、普通の探偵ものかと思ってたわ」
　本格的な光線銃を手に、美野梨は目をぱちくり。『私たちミステリ研は、プロの名探偵の集まりなのよ』！　なんてウソをついてみた彼女は、これから本格的な推理合戦が始まるのかとわくわくとしていたところへ唐突に始まったＳＦものっぽいテイストに、これはブリジットさんのウソが混ざり合った結果のようね。とかなんとか、さっそくひとつの答えを導き出したりしておりました。
「まぁ、たまにはこういうのも良いかしら。それで、私たちは何を解決すればいいの？」
「すばる、状況を」
「オッケー！」
　保安部員、すばるはちくわをくわえながらうなずきます。
　なにもおかしいところはありません、いつもの光景です。彼はいたって真剣です。
「数時間前、艦内で何人かの男性クルーが失踪した……端的に言うと、イケメンクルーだけがこつぜんと消えてしまったんだ」
「……すばるくんは消えなかったのね？」
「ああ、今日の僕はちくわ姿だったから助かった。着ぐるみが無ければ危ないところだったよ」
　なにもおかしいところはありません、いつもの光景です。彼はもちろん、いたって真剣です。
「すばる、それって遠回しに自分がイケメンだって言ってる？」
「いいや、僕が言えることはただひとつ。このクルー失踪事件が外的要因によって引き起こされたのなら、それは宇宙の法則すらねじ曲げる力を持った相手だってことさ」
　ぱちりとウィンク。くわえたちくわをゆらゆらと揺らしながら、すばるは相棒たちへ言いました。
「気を引き締めていこう。クリアエーテル☆」
「クリア……なに？」
「いちいち気にしてたら身が持たないわよ、美野梨。さあ、調査開始よ！」
　意気揚々なブリジット艦長を先頭に、調査隊はＮＥＫＯＪＩＭＡ星の深部へと向かいます。



　えー……本日は、エイプリルフールであります。
　こんな日はいわゆるひとつの、絶好の国家樹立日和……とでもいうんでしょうか？　ＮＥＫＯＪＩＭＡ星こと地球やその周辺にはなにやら特徴的な帝政国家が樹立されまくっておりまして、ここに栄える『ＢＬ帝国』もまた、そんな新興国家のひとつというわけです。
　国名に冠されたＢＬなる言葉が一体ナニを示しているのかは、その国家元首である女王を見ていただけますと、きっと一目瞭然かと思われます。
「儚げ草食系美少年なキミの相手は、こっちのワイルド系お兄さん！　そこのクールな理系メガネ男子なキミは、包容力豊かで主夫力バツグンな優しいお兄さんをくっつけてあげよう。そっちの小生意気系元気少年には……ああ、イケメン美少年たちを好きにカップリングして楽しめるなんて、幸せだなぁ～♪」
　そんなわけで、女王は響 タルトちゃんでした！
　彼女の唯一にして絶対の政策は、軍服を着せたイケメンたちを思うままに組み合わせて、カップルを作ってあげること。女王タルトの名のもとに、軍服美少年たちがめくるめく愛の日々を過ごす、それがＢＬ帝国！
　ただ、帝国臣民たる美少年たちのすべてが、女王の意のままというわけでもないようでして。
「さーて。ムッシュくんもそろそろ、僕のオススメの美少年とくっつくつもりになったかな？」
「勘弁してくれよにゃんこたん……オレはあそこの喜び男子組といちゃいちゃする気はないぜ」
　鎌八 まもる。彼はＢＬカップルコーディネーターなタルトの思惑になびかない、この国で唯一の健康な男子です。
　にゃんこたんこと女王タルトが楽しそうなのは微笑ましいものの、あくまでノーマルなまもるまでその趣味の範疇に組み入れようとしてくるのは、ちょっとゴメン被りたいところではありました。
「まぁ、オレもポニテが千束ある世界にでも行きゃ、あんな顔になんだろ。無理やり連れ帰ってご機嫌でも損ねられちゃかなわないし、少し様子見しとくか……」
　などと彼女の意思を尊重してみたのが、そもそもの間違いであったのかもしれません。
　なにしろここに集められた美少年たちは、タルトの選りすぐり。骨の髄まで忠実な帝国臣民なのです。
「なぁ、まもる。そろそろ俺の愛を受け入れてくれる気になったか？」
「いやオレ、男同士はちょっと」
「まもるお兄ぃ～ちゃん♪　そんなこといって、少しは興味あるんでしょ～？」
「いやいや、オレはいたってフツウで……」
「そろそろ気づけよ、まもる。本当の愛に、性別なんて関係ないってことによ……」
「いやいやいやいや」
　まだフリーなイケメンやら美少年やらが、次から次へとまもるめがけて果敢なアタックを敢行してくるもので、彼はうっかり陥落寸前！　だんだんと断るのも面倒になってきたところだったりしました。
　そしてそんなまもるを、女王タルトはにまにまと実に楽しそうに眺めているのです。
「ふっふっふ～、ムッシュくんの陥落もそろそろだね！　それじゃ先に、キミたちのお相手を決めちゃおうかな？」
　そしてタルトがくるりと振り返りますと、そこにはＳＦっぽいスーツを着た数人のイケメン宇宙船クルーたちが、イヤイヤと首を振りながら震えているのでした。



　果たして、彼らの運命は……？
　まもるとクルーたちの貞操が花と散る前に、アーチャー艦長、美野梨、ちくわの三人は、彼らを無事に救うことができるのでしょうか……！？