ねこじま無双・ティンクルスターズ！｜リアクション

ねこじま無双・ティンクルスターズ！

■エリア・ガンマ２　猛虎爪刃脚
　秋風冥が宮司装束を着ることはあまりない。
　巫女服以上に少ないと言ってもいいかもしれない。
　とはいえ男性であり神社で活動する彼女（容姿にあわせてあえて女性二人称を用いるものとする）にとってはこれが正装であり、サラリーマンにおけるビジネススーツのようなものである。
　祭事があれば、やはり着る。その日は祭事に就いていた。
　しかし普段から着ないスーツを着て作業をすれば疲れるし、神事における祭事は後片付けが面倒なものがおおいせいで余計に疲れる。
　あらかた片付けを終えた所で、冥はうたた寝をしてしまった。

　いけない、着替えてから眠らねば皺が残る。
　などと思って頭を上げればそこは神社の境内。それも冥が見たことも無いような、強いて言うなら清水寺の展望台になんとなく近い神社であった。
　わざわざ神社を述べるのは、眼下に無数の赤鳥居が並んでいるからだ。
　服装や身体の変化がないことを確認して、空気や音、光にたいした違いがないことを確認。最後に柏手をひとつ打って、反響を確かめた。
「そう、またおかしな場所に迷い込んじゃったのね」
　柏手を打って反響を聞くというのは、自分が今どんな世界に立たされているかを確かめるいにしえの手法である。
　感覚から察するに、現実とどことなく似通った精神世界に閉じ込められたらしい。
　ほどなくして知識が一方的に頭の中に生まれ、冥はおおむねのところを察した。
「それで？　その鬼っていうのはどこにいるの？」
　振り返ると、神社の屋内から鬼がわらわらと現われる。
「そういうのは外から来るものでしょうに」
　肩を落とす冥。
　鬼たちが棍棒を振り上げて駆け寄って来――ようとした時には、冥は既にパーソナルスペースの内側に潜り込んでいた。
　体術というより奇術に近い格闘術である。現代にも伝わる古武術のひとつだ。
　思わずのけぞった鬼の顎に膝蹴りを叩き込むと、腹を踏み台にして後方宙返り。
　着地と同時に手を翳すと、鎖分銅と芝刈り鎌がつながったようなアイテムが手の中に生まれた。ビジュアルで例えるなら、死神が持っているような鎌とモーニングスターの合わせ技みたいな武器である。
「使い慣れてるサイズじゃあないけど……！」
　鎌で相手を引っかけて切り裂く。その勢いのまま身体ごと回転し、鎖分銅を別の相手に叩き込んで遠心力で吹き飛ばす。
　明後日の方向から槍を持った鬼が突っ込んでくるが、念と共に後ろ回し蹴りを繰り出すと鬼が上下真っ二つに切断された。
「応用で使いこなせそうね。それじゃあ、この調子で」
　鬼退治といきましょうか。
　赤い髪を燃えるように靡かせて、冥は鬼たちの間を駆け抜けた。