グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！｜リアクション

グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！

■空が青いだけで人生が素敵になるのなら
　世界は灰色に包まれている。
　時間が無いが口癖のサラリーマンと、勉強ばかりさせられる子供と、家事の牢獄にとらわれた母親ばかりが交差点を歩いて行く。
　空は今日もただ青いだけ。雲はただ白いだけ。
　そんな空に。
　赤い風船が飛んでいく。
「あれ……」
　母に手を引かれた子供が空を指さし、続いて母親が、つられてサラリーマンが空を見た。
　赤い風船に続いて青い風船が、更に黄色、緑、オレンジにピンク。
　色とりどりの風船が空を飛び空を彩っていく。
　少年少女の目に虹が光り、かつて少年少女だった大人たちの目に虹ができた。
　そして走るのだ。
　世界にはまだ、心躍るアートがあるのだと知って。

「この町には、楽しさが足りないのですっ！　みみみんっ！」
　狗民きとり。通称いぬみん。
　いぬっぽい帽子（自称本体）を被って商店街を走っていく。
　ながーく膨らませたバルーンをねじってこねてあーしてこーしてプードルやハートの輪っかに変えてガードレールやお家の軒先へ次々に飾っていく。
　駆け寄ってきた少年に、いぬみんは目線を合わせてウィンクした。
「さあぼく、好きなものはなんですか？」
「えっと」
　少年は学術書でしか見たことの無いキリンをさして、きりんさんと言った。
「みみみんみみみん――みんっ！」
　いぬみんは魔法の呪文でも唱えるようにバルーンをこね回すと、早業でキリンのバルーンアートを作ってプレゼントした。
　それは見る人によっては合成ゴムと二酸化炭素の塊でしかないかもしれない。
　しかし今この瞬間より、少年といぬみんの間でふわふわのキリンさんに変わったのだ。
　少年は空想のキリンさんを抱き、それが自らの手の中にあることの喜びに笑った。
「またきさまか、いぬみん！」
　手錠を持ったケーサツ官が駆け寄ってくる。
　いぬみんは少年に手を振ると、沢山のバルーンのヒモを切り離した。
「見ててくださいね、楽しいバルーンショーがはじまりますから」
　くるりと背を向けて走りだすいぬみん。
　追いかけるケーサツ……たちの頭上でバルーンが次々とはじけ、ぱぱぱーんという派手な音と共に小麦粉やコショウがまき散らされた。
　真っ白になってくしゃみをするケーサツ官。
　それを見て笑う子供たち。
　いぬみんは頭上の本体さんを片手で押さえ、笑いながら駆け抜けた。
「さらばーあけちくん！　それではみなさん、またあいましょー！」
　特殊なポンプとゴム風船を膨らませ、ワイヤーロープに手足をひっかけ空へと飛んでいく。
　無数の風船に紛れるように空をゆく彼女を、少年少女が指さした。
　そしてまた知るのだ。
　この世界にアートはまだあるのだと。

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