グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！｜リアクション

グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！

■今を楽しめ。生きる意味ならそのうちきっと分かるだろう。
　アーティスト。
　それは圧制から人々を解放する自由の戦士にして、人々の笑顔を守る幸せの使者である。
　そして彼女――上下左右もまた、アーティストのひとりであった。
「ふふふんふふふんふふふふーん」
　鼻歌交じりにペンキのハケを走らせる。
「白い壁を見るとついつい絵を描きたくなっちゃいますわねー」
　彼女が壁に描いたのは、何かがぶつかって壁にでっかい穴が空いた様……のトリックアートである。
　穴のむこうにはありもしない花園が広がり、足下にはスレッジハンマーが転がっている。
　それを、きわめて短時間に、そして鼻歌交じりに描いてみせるのだ。
　破壊的で開放的な、それでいて恐ろしく天才的なアートであった。
　はじまりは、ベレー帽を被った左右がバケツと鞄を片手に壁の前に立ち止まり、突然バケツの中身を壁にぶちまけたのが始まりだった。
　町中からアートが禁じられ、壁という壁を真っ白に塗ったくったこの町で、突如として行なわれた破壊行為……のように思われた。
　しかし左右はすぐさまハケを取り出して、激しく広がったペンキの流れを器用に整えていく。
　垂れる角度や量や速度、それら全てを直感的に暗算して、『壁にぶち開けられた穴』を素早く再現してみせたのだ。
　タッチのあまりのリアルさに、道行く人々がぎょっとして振り返り、アートというものをよく知らずに過ごした若い世代に至っては慌てて駆け寄る始末である。
「おもしろいでしょう？　トリックアートと言うのですわ」
　道路に開いた穴や、絵画から飛び出す猛獣や、パンを買いに並ぶこびとの行列を次々と描いていく左右。
　人々はそのたびに驚き、時に慌て、そして絵画であることを知ってほっとする。
　画に描いた危険。
　画に描いた夢。
　想像力によってたった一瞬だけ拡張された世界を、人々はいま目にしているのだ。
「きさまだな、道を破壊しているというのは！」
「ちがいますケーブ、これはアートです！」
　駆けつけたケーサツたちが、地面へ無数に開いたマンホールの群れにぎょっとして足踏みをした。
「ごきげんようケーサツさん！　私はおいとましますわ、穴に落ちないようご注意くださいな！」
　帽子を振って逃げ出す左右。
「ええい画に描いた穴など恐ろしくも無い！　追え！」
　ケーサツがトリックアートを踏みつけて走り出す……が、しかし。
「あら、それは本物ですわ」
　開いたマンホールを踏んだつもりになって、ケーサツはひゃあといって落ちていった。

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