グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！｜リアクション

グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！

■芸術無き文明に未来はない
　アーティスト八神修。
　彼のビギンズストーリーは、幼き日の絵本にあった。
　裕福な家庭に生まれた彼は充分な学業と同時に、いくつかの芸術を教養課程に組み込まれていた。
　アートが禁じられたこの社会である。勿論絵本はおろか漫画やアニメも所持することを許されず、修が十代になる頃にはすべて燃やされてしまった。
　だが両親が与えた教養は修の中に息づき、ある日卵の殻を破るかの如くこの世に生まれ出たのだ。
「芸術を焼くことは、人を焼くことと同じ。創造を思い出せ。空想に目覚めろ。幻想に希望を持て」
　修は古い鞄に道具を詰め込み、スプレー缶塗料を手にマウンテンバイクに飛び乗った。
「この世界は間違っている……！」

　修の中に息づき、育ち、生まれたそれは絵画でも歌でもバルーンアートでもなかった。
　地下鉄の通路に立ち、スプレー缶を振って壁を見つめる修。
　次の瞬間、勢いよくスプレーを放って壁に黒い線を描いていった。
　素早く、しかし正確にとられたラインは綺麗な四角形だ。
　四角形の枠の中には、動物を擬人化したキャラクターを描き込んでいく。
　色を無くしすぎて足下の石に気づかない様子や、娯楽を喪って無教養になった人々の様子を描いた風刺画である。
「みな現状に口を閉ざし、考えることをやめてしまっている。今をやり過ごせばマシな明日が来ると思っている。けどそんなはずは無いんだ。俺たちが喪おうとしているものは、未来そのものなんだ……！」

　修のアートは止まらない。
　町中にいくつも四角形を描いては、そこに漫画を書き付けていった。
　一コマ一コマばらばらで、見る順番によってストーリーの変わる不思議な漫画だ。個体ごとがアートであり、群体によってまた別のアートとなる。
　そしてそれらを描く姿こそが、アートの根源となるのだ。
「世界には楽しいことがあふれている。明日が苦しくても、昨日がつらくても、こんなに楽しく生きていくことが出来るんだ。皆、目を覚ませ！」

　やがて修はケーサツに追われる身となった。
　しかし後悔はない。彼は自らの信念のもと、正義を成したに過ぎないのだ。
「けど、捕まってあげる義理もないよね」
　スプレーガンでケーサツを足止めし、手に入れた改造バイクに跨がって走り出す。
「人の創造性を取り戻す。それが俺の使命だ。俺が、俺の責任で、俺自身に課した……」
　町を疾走しながら、壁にタギングシートを貼り付ける。
　『八神修』とシャープな字体で描かれたそれを見て、人々は知るだろう。
　世界はもっと、楽しくなれると。