グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！｜リアクション

グラフィトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン！！！！

■遺伝子に刻まれたアート
　高層マンションの最上階。
　町の夜景がきらめくさまを、老人はうっとりと見つめていた。
「アートとは、なんでしょう。国は犯罪の温床になるとしてアートを禁じましたが、それは絵画や彫刻や娯楽本の規制に過ぎません。けれど本来アートとは……？」
「建築。服飾。生活用品のデザインに至るまで……人類が作る全てのものが、アートと言えるのかもしれない」
　老人の後ろ。ガラスに映り込むようにして現われたのは旅鴉月詠であった。
　ソファの背もたれを撫で、単色の絨毯の上を歩く。
「たとえばケーサツをケーサツたらしめているあの制服もまた、『さもあらん』とデザインされたアートだ。獣の皮をはいで身体に纏ったとて、人は芸術性を取り入れてしまう」
　月詠は棚に並んだ『歴史資料』を端から順に眺めた。
　百年、千年、二千年……どれだけ遡っても人類はアートと共にあった。
　石で壁を削り、皮を綺麗に切り、歌って踊り、この世界を楽しもうとしたのだ。
「アートを禁ずるなど、禁酒法に並ぶ悪法だ。政治家であるあなたも、それを承知しているはずですが？」
　月詠の言葉に、老人は肩をすくめるだけで返した。
　権力者の代名詞のように語られる政治家も、時として無力となる。いくつもの策謀の中に放り込まれた時や、民衆という高波に呑まれた時がそうだ。
「いつかこの『ルール』も覆される時が来る。禁じられたとしても消えない炎は、いずれ覆い隠す幕ごともやし巨大な炎に変わるでしょう。そして『禁じられたからこそ生まれたアート』として……後生に語られる」
　月詠が開く歴史資料。それは禁酒法時代にさかえた隠れ酒場やトランプ税に対抗されたシークレットカード、宗教画に隠れた暗喩や特殊技法によって植え付けられたドクロ。隠れ宗教家の作ったクロスや数珠。
「そして……この部屋もいずれ、そのひとつとなる」
　証明のスイッチをおとす月詠。
　すると壁一面に美しくも幻想的な夜景が現われた。
　特殊な塗料によって、暗闇でのみ見えるアートを描いたのだ。
　振り返る月詠。
「おや、笑顔が戻りましたね」
　幻想の夜景と、現実の夜景。
　その二つに挟まれて、月詠はうっすらと、観測できるギリギリの笑みを浮かべた。
「無辜の民も、同じ笑顔を求めている。共に未来を開きましょう。この世界を塗り替えるのです」

　世界からアートが無くなることはない。
　アートとは、人生そのものであるからだ。

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