カフェつくりゃんせ！　～世界にひとつだけの店～｜リアクション

カフェつくりゃんせ！　～世界にひとつだけの店～

■あの日の時間をもういちど
　夜眠るとき、窓の外から聞こえる虫の声に落ち着くことはないだろうか。
　暑い夏の日に、蝉の声に和むことはないだろうか。
　草と土と、空のにおい。
　水滴のついたグラスになみなみと注いだ麦茶。
　からんと音をたてる氷。
　盆にのったそれを掴んで飲み干す、あの時間。

「カフェ『虫ノ声』――私の目指す、理想のカフェです」
　屋敷野梢は昨今のカフェにひとつの物足りなさを感じていた。
　モダンな空間を作って落ち着かせたり、アニメや漫画のコラボで楽しませたり、ネコと一緒に和ませたり、ポップなキャラクターに浸らせたり……。
　そんな中に、実家のような安心感を得られるカフェが無い。そう感じたのだ。
「私は一つの結論に達しました。今のカフェに足りないもの。それが虫の声だ、って」

　ある説によれば。
　海外の多くでは虫の声を『雑音』と考えていて、無意識に聞き流す習性があるという。
　なので日本の夏アニメを見せると「定期的に挟まるこのジージーというノイズはなんだ？」となるそうだ。
　ほかにどのくらいいるのかはわからないが、少なくとも日本人のもつ『虫の声』という感覚は、日本特有のものであるようだ。
　そう考えると、海外からやってきたカフェ文化に虫の声が入らないのも頷けるところである。
　実際、雑音を消すための工夫が古来より随所に凝らされていて、虫の声も例外ではない。
「と、いうわけで」
　梢はさっそく畳を敷き、ちゃぶ台と座布団を並べ居酒屋の座敷席よろしく靴を脱いで上がるタイプの座席を用意した。
　目指すは昭和ノスタルジー。
　白熱電灯を模した照明と漆喰によるぼんやりとした照り返しで光をわたし、ブラウン管テレビに古いテレビショーの映像を流してみせた。
　この辺りは年代によって分かれそうなので、テレビの下に古い漫画を詰め込んでみたり、大手初代のテレビゲーム機を置いてみたりした。ゲームカセットに油性マジックで名前を書くのも忘れない。
　座席は個室タイプになっていて、それぞれ縁側がついている。
　植木を調節して庭が隣と仕切られているように見せかけつつ、ぼんやりと庭木や草を軒下からライトアップしていく。
　そして忘れちゃいけないのが虫の声である。
「録音じゃない、生の声を聞かせましょう」
　梢はあえての生演奏を選んだ。
　虫かごにいれて飼育したスズムシやウマオイが歌い、時には外っぽい照明を黄昏の色に変えてヒグラシの声を聞かせたりもする。
　出すメニューもあえてのファースト麦茶。
　お品書きには和茶や和菓子を中心に、ちょっとした駄菓子をつけていく。
　そして忘れちゃいけないスイカ。

「もしかしたら、みんなこういう光景に帰りたいのかもしれませんねー……」
　縁側で麦茶をのみのみ、梢はぼうっと虫の声に耳を傾けた。
　どこか遠くで小さな鈴を転がすような、あのなんともいえぬ声に。

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