カフェつくりゃんせ！　～世界にひとつだけの店～｜リアクション

カフェつくりゃんせ！　～世界にひとつだけの店～

■いずれ立つ舞台のために
　八神修。それは将来の約束された少年。
　一見希望に満ちあふれた黄金のレールはしかし、世界という巨大な敵との戦いをも約束されていた。
　そんな彼にとって、ゲームとは……。
「失敗が許される挑戦、か。ありがたいね」
　死んでもいい。
　負けてもいい。
　終わってもいい。
　そんなものは、この広い世界でゲームくらいしかない。
　それがリアルに体感できるとあれば、修はトライせずにはいられなかった。
「いずれ形にしようと暖めていた企画だけど、シミュレーションをしておこう」
　修が最初に刻んだのは店名である。
　その名も、『星宮珈琲』。

　モダンなシルエットに黒と金による色調で高級感を出した店内は、つやのある木材で組まれた仕切りと吹き抜け構造になった高い天井によるのびのびとした空間に仕上がっていた。
　高級なソファと広いテーブルを用意して、ゆったりと落ち着けるように配置していく。
　修が目指したのは『高級感とくつろぎ』だ。
　そのために一人分のスペースは広く取り、よその音が聞こえてこないように天井からはねるピアノ環境音と各席の仕切りによって綺麗に個別の音響空間を作っていく。
　余談だがこれは音響設計といって建築とはまた別の技術者が手がける仕事である。音の魔法というべきか、ひろびろとしているのになぜか静かな、ぜいたくな空間ができあがった。

　と、ここまで高級感に拘ってはいたが、修がターゲットとしているのはあくまで一般層。
　休日の昼食でハンバーガーにしようかサンドイッチにしようか迷うような人たちである。
　具体的には平日昼間の主婦層。夕方の男性層。休日の学生層である。
　そのためには入りやすさ、ないしは利用しやすさを必要とした。
「大通りに建設できるならドライブスルーを備え付けるのもいいだろうな。けど駅の近くに作るならむしろ邪魔になる。駐車場とひとりあたりのスペースを稼ぐ方がいいか……」
　などと、修の頭の中では既にチェーン展開を想定した考えが回っていた。

　しばらくして。
　カフェは狙い通りの客層をゲットすることができたようだ。
　修は客層を見ながらメニューの調整にうつった。
「ランチにあえて量をもたせよう。贅沢をしている感覚をわかりやすいインパクトにするんだ」
　たとえばお腹いっぱいになるくらい巨大なハンバーガー。
　たとえば巨大なソフトクリームが乗った分厚いパイ。
　これらをお手頃価格からほんのちょっとだけ高い値段で提供するのだ。
「勿論、長くくつろいで貰うためにドリンクは大きなサイズが基本だ」
　クリームソーダやアイスコーヒーはクリスマスに売ってるお菓子の詰め合わせ靴下みたくインパクトのあるでかさに。
　皆で囲んでつまむのではなく、一人ずつがでかいという状態を目指してメニューを絞る。
「うん、これでいい……」
　修は自らが作り上げた大繁盛のカフェに客として訪れ、本を広げてソファに腰掛けた。
　タルトと冷たいコーヒーを注文し、ゆったりと身を預ける。
　この光景が実現する日も、近いのかもしれない。

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