カフェつくりゃんせ！　～世界にひとつだけの店～｜リアクション

カフェつくりゃんせ！　～世界にひとつだけの店～

■あの日よ、永遠であれ
　見覚えのある部屋にぽつんと立っていた。
　それが、暇なときにプレイしていたアプリゲームの光景であることに気づくまで、そう時間はかからなかった。
　フシギ現象にもなんだかんだで慣れてきた青山絢である。流石の対応力だった。
「カフェを作って経営するゲームだったわね、確か……」
　部屋は初期状態。テナントを募集する空き店舗のごとく涼しく、そしてどこか寂しい光景だ。
　宙に手を翳すと、家具や制服を選択するためのウィンドウが開いた。
　空いたスペースにソファーやテーブルを置きたい気持ちが絢の中にふつふつとわいてくる。
　ただ配置をいじるだけで、きっと一日は楽しめるだろう。
「けど、いつまで遊べるか分からないし。ここはアレをやってみようかしら」

　絢が目指したのは『時間から残されたカフェ』だ。
　よくカフェでぼうっとコーヒーなど飲んでいて、ふと時計をみると思った以上に時間が経っているなんてことがあるだろう。
　他にも、中途半端に空いた時間を潰すためにカフェに訪れるなんてこともある。
　ある意味カフェと時間は密接な関係にあると言っていい。
　そんな中で絢が求めたのは、『ある日で止まったままのカフェ』だ。
　人ではなくカフェが、ある日からずっと止まったまま取り残されていたような、店全体が巨大なタイムカプセルであるかのような。
　入った途端、まるで時を戻されたかのように感じるようなカフェだ。
　家具はアンティーク調の新品をあえて選び、『古いまま残っていた』ではなく『古いまま止まっていた』感覚を演出した。
　全体的な色調は灰色に近く、あえてモノクロ印刷した写真を額に納め、壁に飾っていた。
「いらっしゃい。あなたが最初のお客さんよ」

　昭和モダンのインテリアに囲まれて、絢が客に笑みを作った。
　服装もどこか当時を思わせる姿で、メニューのフォントに至るまで雰囲気が統一されている。
　メニューはコーヒーか紅茶の二択。
　食べ物は焼き菓子とケーキと、ちょっとしたパンケーキ。
　ゲームの中でしかできないような、どこまでも突き抜けたコンセプトカフェだ。
　だがそれでも、来る人は来るものだ。
　いつかのどこか、置き忘れてきたかつての時間に戻りたがる人々の、いわば望郷のような気持ちによって。
　またひとつ、入店のドアベルが鳴る。

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