【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜｜リアクション

【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜

● 坑道入り口

　スコルピウス山から立ち上る噴煙のせいか空は赤黒い暗雲に覆われ、時折稲光が天と山との間を裂く。
　第十二階層のオーブが、スコルピウス山の坑道のどこかに隠されていることを知った一同は、山腹にある大岩に隠れて、坑道の入り口に当たる穴を見つめていた。
「いよいよ十二階層か。いくつかの階層に関わってきて、もう、最上階なんだな」
　鴻上彰尋は誰にともなく呟く。
（バーガンディの話によると、黒い影による干渉じゃなくて『天からの黒い光』ということだった。てっぺんに近いここは、最も黒い影の影響力が強いところなのかもしれない。もしくは、星の光が強くなっている分相手も強くなっているのか……？）
　さそり座のバーガンディを見遣る。このじじい口調でしゃべるサソリは、アリス・ミーティアの豊かな胸の谷間に挟まれて、「落ちちゃうからあんまり動かないでね」なんて言われてぬくぬくしていた。
　ちょっと脱力。
　彰尋は首を振って気を引き締め、一緒にこの山に立ち向かう仲間たちに声を掛けた。
「強い光には、強い影が産まれる。そういうことかもしれないし、警戒していかなきゃな」
　そのとき一際強い稲光が、龍の如き太くささくれだった軌跡を描いて雲間を横切った。
　稲光に照らされたのは、大きな耳で醜い顔をした二体のゴブリン。
　見張りのようだが、敵が襲ってくるなどとは思いもよらないのか大欠伸をしたりと緊張感がない。
「まずはあいつらをなんとかしないと、ね」
「そうだな。騒がれると先に進む際の障害になる」
　恵御納夏朝が猫の手型の金の戦輪を投擲したのと、御剣刀が動いたのは同時だった。
　戦輪は、自分たちが隠れている大岩とは反対側へ飛んでゆく。ゴブリンたちが戦輪に気を取られたのが好機。
　刀は、日本刀を構え、ガチン！　と頭の中で撃鉄を落とす。
（――加速！）

　刀は天を横切る稲妻の如く駆けた。
　気の抜けた見張りゴブリン如きに対応できる速さではない。
　峰打ちで刀を振るい、二体を素早く片付ける。
　う、と声を出す暇もなく、ゴブリンたちは気を失った。
　その倒れる音にすら気を遣い、刀は二体を支えてゆっくり地面に横たえる。
　あまりの見事さに、岩陰に隠れていた他の仲間たちから無音の拍手が上がるほどであった。

　こうして一行はすんなりと坑道内へと侵入した。

このページにイラストを設定する