【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜｜リアクション

【星幽塔】第十二階層　獄炎の狂える竜

● 漆黒の岩窟

「昏いね」
　アリスがカンテラを掲げれば、夏朝も手甲に星の力と同じ金色の光を灯らせる。
　黒く層になった岩肌が照らし出される。
　黒い兎の耳と尻尾を持つ戦闘民族ヴォーパルバニー族の少女、アスワド・クロノワールは、黒い岩肌に頬を寄せ、くんっと鼻を鳴らした。

「黒い洞窟だな！　洞窟は住処みたいで落ち着く」
「僕は、ちょっと気になる。……影が岩に化けてないといいけど」
　夏朝は慎重にあたりを照らし、念には念を入れてバーガンディにこの黒色はもともとかと尋ねた。
「わしが知っとるかぎりそうぢゃ！」
「じゃ、大丈夫、かな」
　安堵の息をつく夏朝の頬を、一筋の矢が掠めた。
　え、と思う間もなく矢の行く先から、
「ギャ」
　と潰れた呻きが聞こえた。
　振り返れば、狩人の光を宿した水上桜がクロスボウを構えている。
「あ、ありがとう」
「お礼はあと！　ゴブリン、もう１体、右！」
　桜が身体をスライドさせる。入れ替わるようにアスワドが跳躍した。
　ヴォーパルバニー族ならではの脚力と俊敏な身のこなしで、ゴブリンの眼前に舞い降りると、腹に一撃、空中へと吹き飛ばす。舞い上がったゴブリンの身体を、桜が放った矢が打ち抜く。
　素晴らしい連携プレイだ。
　アスワドと桜は、不敵に視線を交わし合った。
「キミ　やるね」
「そっちこそ」

　内心では恐れを感じないわけではなかった。端的に言えば暗闇にも敵にもビビっている。けれどそれは決して顔には出さない。それってみっともないし、かっこ悪いじゃない？
（――かっこいい女でいたい。冷静なスナイパーで、私はいられるはず）
　それは、１５歳の少女の決意。
　桜とアスワドは、同時に振り返り、３体目を撃破した。
　耳を澄ませて、それ以上ゴブリンの気配がないことを確認し、仲間たちにオーケーのサインを出す。

　漆黒の岩窟は入り口側から向かって左右に道が分かれている。
　アリスのカンテラの灯りを借りて、リリエル・エーテライトが坑道内のマップを広げる。
　バーガンディから聞き取ったものだ。

「えっと地図によると、右手が採掘場で左手が祭壇、そして真ん中が火口でドラゴンがいるんですよね？　手分けして探しますか」
「せやな」
　竜騎士・服部剛が連れている黒銀の竜・アルスの首筋を撫でる。
「俺はこいつとクリムゾンの足止めに回るわ」
　ほかに鎌八まもる、椿美咲紀、新田亮、水上桜、八神修もクリムゾンの足止めに回ることになった。
　祭壇の調べると言うのは、御剣刀とアスワド、フォルカ・ヴィクスンの三名だ。
　刀は祭壇がアヤシイと思う理由をこう述べた。
「神様を祭っている所で偶像としてオーブ祀ってたりしないかな、と思ってさ。あ、でも、火緋色金（ヒヒイロカネ）を見つけたら分けてくれないか？　刀を作りたい」
「いいとも」
　旅鴉月詠が請け負う。月詠ならたしかに何とかしてくれそうだ。
　アリスがフォルカに釘を刺した。
「フォルカ、お宝の独り占めはダメだからね！」
「それは約束したくないな。見つけたら戴く。それがあたしの盗賊魂よ！」

　ウィンクでバチンと決めたところで、フォルカは刀とアスワドの側に寄る。
　採掘場方面を調べるというアリスとはここでいったんお別れだ。
　
　残りは、ゴブリンの寝床や採掘場などを調べようというメンバーだ。
　リリエルは地図をしまい込み、気合を入れる。
「私も奥行が深い採掘場方面の手伝いをするのがよさそうですね！　ゴブリンも多く住んでるみたいですし、露払いは任せてください！」

　一行はここで、三手に分かれた。オーブはいったいどこにあるのだろう。

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