あたらしいこと、はじめよう！｜リアクション

あたらしいこと、はじめよう！

【魅惑のお漬物】

　ぬか漬け。その魅力とはまさしく深淵のごとしで、レシピは人により千差万別、こだわり始めると実にキリが無く、糠床のお手入れにも柔軟な対応を求められ……ハマるとどこまでもハマってしまう、それがぬか漬けというものなのです！　ちょっぴり大げさに表現してみるならば。
　そしてこの春、果敢にもぬか漬けの世界に足を踏み入れようという少女が、ここにもひとり。
「今日は『浅漬け』をマスターして、『糠床』を作り始めたいと思うのです！」
　お野菜大好き、椿美咲紀！　寮のお庭で家庭菜園も営む彼女、丹精込めて育てた野菜をお漬物にしてより楽しんでしまおう、というわけです。
　ただの漬物ならお店で買うこともできますけれど、自分で糠床を作って、毎日かき混ぜて……なんて、とっても楽しそう！
「でもひとりじゃ不安なので、アドバイスお願いなのです！」
「はい、頑張りましょうね～」
　星ヶ丘寮のメイドさん、佐竹さんもお手伝いをしてくれるそうでして、何ともありがたい限りです。
　準備は万全。美咲紀はメイドさんとともにえいえいおーっと腕を振り上げて、レッツチャレンジ漬物づくり！

　宣言どおり、最初に挑戦するのは『浅漬け』です。
「きゅうりはスライスして、キャベツは手でちぎってしまいましょう」
「ちぎりちぎり……キャベツのちょっと痛んでるトコロとか、しょげてるところは除けておくですね？」
「ええ、後で使いますからね～」
「りょうかいなのです！」
　お野菜の扱いならお手のもの。手際よくきゅうりとスパスパ切り分け、適当な大きさにちぎったキャベツへ、
「塩パッパ♪」
　楽しそう。
「後はお野菜をビニール袋に入れて、昆布ダシを追加して、もみもみ～」
「鷹の爪も一緒に入れましょうね」
　即席漬けとも呼ばれたり、あるいはいわゆる勉強における一夜漬けの由来でもありまして、浅漬けはあっという間に準備完了！　わずか数時間後には、美味しいおしんこに成長してくれることでしょう。
「夜には食べられるかなぁ。わくわく♪」
「それじゃ、次はいよいよぬか漬けに挑戦ね～」

　最近は何をするにも、便利なものがあるものでして。美咲紀が取り出したのは、
「お手軽カンタンぬか漬けキット～！」
　で、ありました。ホーロー製の小さめの器と糠がセットになったもので、漬けたいお野菜さえ用意したら、すぐにもぬか床作りにチャレンジできるありがたいキットなのです。
「最初は発酵を育てるために、捨て漬けをすると良いのよ～」
　という佐竹さんのアドバイスに従って、美咲紀がぬか床へと投入したのは、先ほど浅漬けを作る時に出たきゅうりのヘタや、キャベツの切れっぱし。こうすることで乳酸菌の育成を助け、特に漬け始めのとがった塩加減をまろやかにしてくれるのです。
　美咲紀は嬉々として、糠床に手を差し入れてぐるーり一回転。それだけで、なんだか楽しくなってきてしまいます。
「佐竹さん、ポイントとかあるですか？」
「そうね～。毎日朝晩に、空気を入れるようにかき混ぜること。それに、お野菜は２～３日で入れ替えることかしら～」
「ふむふむ、なるほど！　忘れないようにしないとですねっ」
　あとは毎日欠かさずかき混ぜて、１０日から２週間ほどでいかにも糠床らしい良い香りがしてくることでしょう。そうなったらいよいよ、本命のお野菜を漬けこむ時！　考えるだけで、わくわくと胸が弾んでしまいます。

　その日の晩ごはんには、昼に漬けた浅漬けがさっそく登場しました。
「んんん！　美味しいのですっ」
　美咲紀はきゅうりをぽりりとかじり、ご満悦。自分で育てたお野菜、自分で作ったお漬物だけに、感動もひとしお！
「糠床のほうも、がんばらないとですねー。ふふふ、育つのがとても楽しみなのです！」
　美味しい自家製ぬか漬けに思いを馳せながら、美咲紀はぽりぽり、浅漬けの風味を楽しみました。