あたらしいこと、はじめよう！｜リアクション

あたらしいこと、はじめよう！

【デビュー！】

　寝子島に、桜吹雪の舞い散る季節。
　春です、凛さん！
「いやー、いろいろ買っちゃったなぁ♪」
　そんなわけでほくほく顔の雨寺凛は、シーサイドタウンにてお買い物中であります。
　淡い色合いの素敵な春物シャツとか、『アレキニャンドロス』の新譜とか、来年度からの新しい生活を彩る諸々も含めると、出費もけっこーかさんでしまいましたけれど。それでも気分は晴れやか！　春休み、２年生への進級を控えた彼女の胸は、うきうきと弾んでおりました。
「……お？　新しいお店だ。何のお店だろ？」
　目に付いたのは、学生が揃ってお休み中で賑わう街中に、少々異彩を放つその店舗。店先には大きな花輪が飾られていて、どうやらオープンしたばかりのようです。
　興味を惹かれて凛は近づき、中を覗きこみます。
「へぇ、ロリータファッションのお店かぁ。こういうのは着たことないなぁ……」
「よろしかったら、ご覧になりませんか？」
「えっ？」
　しゃらーん！　お店はいわゆるひとつのゴスロリファッションの専門店のようでして、凛へ声をかけてきた店員さんらしき女の子も、これでもかとフリルがあしらわれた黒のドレスに厚底の編み上げブーツ、長い髪にヘッドドレスを飾っています。
「もちろん、試着もできますよ」
「いいんですか？　じゃあ……ちょっと、試してみようかな！」
　春。気持ちとともに、装いも新たに！　なんていうのも、楽しいかもしれません。

「ほわぁぁぁ……！」
　１０分後、鏡の前に立つ彼女はもはやこれまでの凛ではなく、そう……おニュー凛！
「すごい。私じゃないみたい……！」
　いつも丹念なお手入れを欠かさない、自慢の艶やかヘアーに良く映える、薔薇のコサージュがあしらわれたリボン。ひらひらふりふりのレースやフリル、薔薇に彩られたワンピースのドレスは黒一色で、スカートはパニエでふんわりと膨らんでいます。
「ゴシックロリィタは、メイクもファッションの一部ですからね」
　という店員さんのサービスで、ちょっぴり濃い目のアイシャドウにダークレッドのリップも施したなら、カンペキなるゴスロ凛ちゃんの完成であります。
　鏡の前で、くるりんっ！　と一回転。いつもの快活で明るい凛とは少しばかり趣きが違って、落ち着いた佇まい。ちらりとダークで、耽美な退廃感。そんなものを漂わせる自分が新鮮で楽しくて、凛はくるん、くるりと回りました。
「うわぁ、結構カッコイイかも！　これで街を歩くのも楽しそうだなぁ」
　思い切りの良い彼女は、即座に決めました。
「気に入っちゃいました。これ、買います！」

　ゴスロリルックに身を包んだ新鮮おニュー凛はリボンとフリルをなびかせて、さっそうとシーサイドタウンの街中をカッポします。
　するとどうでしょう……行き交う人行き交う人、みんながみんな凛を振り返っては、ほうっと熱い吐息を漏らして見つめているではありませんか！
「おおっ、視線を感じるよ……！　やっぱりこの恰好、目立つよねぇ」
　謙虚な凛ちゃんはそう言いますけれど、もちろんそれだけではなくて、バッチリ素材が良いからでもありましょう。
「あはは、なんか楽しくなってきちゃった♪　たまには新しいファッションに挑戦してみるのも、良いもんだねっ」
　ふと脳裏へちらりとよぎるのは、こんなふうにゴスロリファッションに身を包んだ自分が、ステージでギターをかき鳴らし熱唱する姿。あるいはそんなのも、きっと楽しいことでしょう。
　気分がノッてきて、凛の足取りはたんたかたんと弾むよう。
「うーん、もう少しこの恰好で歩いていたいな。よーし、海浜公園まで行っちゃおう！」
　ふわりとスカートを翻し、凛は潮騒の鳴るほうへと軽快に歩いて行きました。

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