R&R Agency：File04：ウジョニャウの怪｜リアクション

R&R Agency：File04：ウジョニャウの怪

● ２日目：廃校調査

　一方。
　御剣刀、新田亮、椿美咲紀、桜庭円は、朝から廃校の調査にやってきていた。
　美咲紀はまず、昨日置いた餌の減り具合をチェック。外に置いた猫おやつは、猫ではなく小鳥が集まって突いていた。とりあえず撮影して修にメールする。
「うーん。若干減っている気もしますが鳥さんが食べたのかウジョニャウが来たのかははっきりしないですね」
「おーい、まもるくーん。生きてるー？」
　円が校内に呼びかけると、窓の桟からするすると手のひら大の蜘蛛が糸を伝って下りてくる。
「蜘蛛は勘弁っ！」
　虫が苦手な亮は、咄嗟に刀の背後に回り込む。
　刀は落ち着いた様子で、蜘蛛を突つく。
「大丈夫だ。鎌八だろ？」
「そうだよオレだよ。なんで逃げんだよ」
　ろっこんを解いた鎌八まもるが大きくため息をつく。
　亮は刀の背後から顔を出し、本当に蜘蛛がいないことを確かめると、威勢よく言った。
「わ、わかってる。こわくなんかない。ただ虫が苦手なだけだ」

　そんな具合にひとしきり朝の挨拶を終えると、一晩廃校で明かしたまもるから報告があった。
　８つの目で天井から見張っていたのだが、ウジャニャウらしき妖怪、もしくは動物も見なかったという。
「外からの侵入口になりそうな所……例えば扉などに蜘蛛糸を張っておき、テンションセンサの変わりにして侵入したり、開閉すれば切れるようにしておいたんだが、それも異変なしだ」
　ただ、とまもるは声を潜めて付け加える。
「夜中にミシッ、ピシッってラップ音みたいな音がしたぜ」
　この音は、美咲紀が仕掛けておいたＩＣレコーダーでも確認できた。
「ウジョニャウの姿は映らなかったけど、音は録音できたんですね」

　それから全員で校内に立ち入る。
　積もった埃の上に、人間にしろ動物にしろ最近のものらしき足跡がないのは、まもるが昨夜確認済みだ。
　土足のまま玄関から入り、校舎を東西に貫く廊下に足を踏み入れる。
　ぎしり……。
　みしり……。
　廊下は一歩ごとに軋むので、床が抜けないよう慎重に歩かなければならなかった。
「私は棲みついている動物の痕跡を探すです。まずは学校で飼われていた動物が居ないか調べるです」
　美咲紀は職員室で日誌などが残っていないか、教室に宿題の日記帳が残っていないか調べて回る。すると、とある教室の掲示板に係分担表が残っていた。
「ありました、生物係。ええと、ヤギのえさやり、うさぎ小屋のそうじ……猫っぽい動物、ないですね」
　美咲紀は他の教室も調べたが、ウジョニャウ＝学校に棲みついている動物説を裏付けるものは見つからなかった。それどころか、猫に限らず動物の痕跡自体がほぼ皆無であり、逆に美咲紀は首を傾げる。
「うーん。雨風凌げる丁度良い棲み処のように見えるのに、ヘンなのです」

　一行は、廊下の西の端までやって来た。
「ゆうべラップ音がしたのはここだ」
　まもるが一番端の教室を指さす。
　亮が立て付きの悪い戸を何とか引き開ける。
　教室の様子は、窓が殆ど割れている以外は、一見、何事もないように見えた。ところが、教室の中に入ると、ほぼ全員がめまいを訴え始める。
　円も瞼を抑えている。
「なんか目がおかしい。くらっとする感じがする。これって霊障？」
「いや」刀が首を振る。「この部屋、歪んでないか？」
　そうだ。昨日さゆるが言っていたではないか。
『校舎が全体的に、歪んでいるわ』と。
　まもるが蜘蛛になって天井から糸を垂らしてみる。垂らした糸と床面が直角にならない。
「建物の歪みで平衡感覚がおかしくなって、めまいを感じるんだ。ラップ音もただの家鳴りかもしれない」
「えー。なんかフツウ。つまんないな」
　円が唇を尖らせたそのとき。
　パシッ！
　破裂音が１度、たしかに全員の耳朶を打つ。
　刀ははっとして、皆を教室から出るよう誘導する。
「校舎から出よう。音がするほど軋んでるなら危ない。ウジョニャウも痕跡も見つからなかったし、いったん外を調査しよう」