――機会があればR&Rの皆で温泉に行くのも良いですよね。
サキリ・デイジーカッターが
坂内 梨香にそう告げたのは、
卒業生を送る会でのことだった。
そのときの梨香の返答はこう。
――いいわね。その案件、要検討の印をつけとくわ。
要検討の印がつけられていたこの案件は、春休みを迎え「実行」の判を押されることとなった。
◇
東京から九州まで飛行機で約2時間。プロペラ機に乗り換えてさらに1時間。
R&Rの経費で、一行が辿り着いたのは、南の島だった。
緑の色は関東とは比べ物にならないほど濃く、3月末だというのに夏日で、汗がにじんでくる。
空港まで迎えに来てくれた、秘湯の民宿の老主人に誘われ、辿り着いたのは開放的な古民家であった。
通された部屋には白い皿のような傘のついた裸電球のほかは、テレビもラジオもなかった。
畳に襖。年季の入った木枠の窓にはレトロな乳白色の曇り硝子が嵌っている。
窓を開けると、緑の向こうに海が見渡せ、透かしの入った欄間をさわやかな風が抜けてゆく。
一行は荷物を置いて深呼吸した。
ここまで来ると、なにもないのが贅沢に感じられる。
お茶と茶菓子で休憩して、さっそく秘湯に入ろうかそれとも夕食まで散歩をしようかと算段をはじめたところで、宿の手続きのため姿を消していた梨香が現れてこういった。
「みんな。まずはお仕事よ」
ええー。まじかよ。仕事あんの!?
そんな恨めし気な声が聞こえてきたが梨香は無視し、仕事の概要を話し始める。
「依頼主はここのご主人。場所は歩いて10分ほどのところにある元小学校。
廃校になって十年以上経っていて、幾度も取り壊しの話があったけれど、工事をしようとすると重機が故障したり、関係者が亡くなったりして、その都度頓挫。島の人たちは祟りだと信じている」
「祟り? いまどきそんなの信じてるのかい?」
サキリが首を傾げると、梨香はしっと人差し指を口元に当てた。
「こういう辺境の島や村では、そういう怪異はちゃんと生きているのよ。神魂とか、そういうのとはまた別の意味で……歴史や文化として、ね」
そういうものなのかもしれない。
都会の文明と切り離されたこんな何もない場所では、そんなこともありそうに思える。
「今回の件、ご主人はこう言ったわ。――
ウジョニャウの祟り、と」
「ウジョニャウ?」
聞き返す。聞きなれない単語だった。
「背中の縞が交差した、綾模様の猫、だそうよ」
依頼者である老主人によると、この島の言い伝えでは、
・ウジョニャウはとても凶暴で、見かけたら通り過ぎるのを待たなくてはいけない。
・ウジョニャウの機嫌を損ねると、襲ってくる。
・その正体は、じつは浮かばれない死者の霊である。
――云々。
ウジョニャウ=死者の霊であるという認識は島の人々の間に浸透しており、どうしたものかという話し合いの席で、戦時中に学校の校庭に落ちた一発の爆弾の話が掘り起こされた。犠牲になった女教師と5名の生徒たちの無念が祟りを起こしているのではないかという話が島の住民たちの間ではまことしやかに囁かれ、祟りを恐れた作業員たちは取り壊し工事を拒否。以来、廃校は手つかずのまま放置されている状態だそうだ。
しかし依頼者はその話に疑問を抱いている。なぜならば、犠牲になった女教師とは、自分の母方の叔母だったからだ。戦後生まれの依頼者は話でしか聞いたことのない叔母だが、とても優しい人だったそうで「祟る」というのはしっくりこないのだという。そんな雑談を、梨香が仕事として請け負ったのだ。
「本当に戦時中の犠牲者の祟りなのか、もしそうなら解決できないか、というのが今回の依頼よ。タイムリミットは滞在中。滞在中に原因だけでも究明できれば宿代はタダ、解決できなかったら普通に宿代を払う……ということで交渉したから、よろしくね」
◇
一行は現場を見るため、うだる午後の道を10分ほど歩いた。
くだんの学校は小高い場所にこじんまりとあった。背後にはこの島唯一の山があり、まるで山に抱かれているかのように佇んでいる。校庭であっただろう場所は雑草が生い茂り、学校にも蔦が絡んでいた。窓硝子は割れ、明るい午後の日差しとは裏腹に、黒々とした口を開けている。校庭の隅に石碑があった。近づいてみると、慰霊碑であった。例の爆弾の犠牲者を供養するためのもののようだ。
「あまり近づかないで。今日は下見よ」
梨香がそう言ったとき、朽ちた校舎の前を褐色の塊が横切った。サキリは、猫だ、と認識した。図体は普通の猫より一回り大きく狸のようにずんぐりしている。背中の縞に目をやる。
「交差した縞模様……ウジョニャウ?」
駆け出しそうになるサキリを、梨香が手で制す。
見守っていると、ウジョニャウは敏捷な動きで、校舎の裏手に消えて行った。
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
サキリ・デイジーカッターさん、いつぞやは、機会があればR&Rのみんなで温泉に~と
おっしゃっていただきありがとうございました。
梨香の卒業のモロモロが片付いたのでしょう、春休み、遠出してみんなで温泉、
お久しぶりな「オカルト事件調査会社R&R Agency」の休暇……と思いきや、お仕事でございます。
基本的には読み切りなので過去のシリーズなどを読む必要はありません。お気軽にご参加くださいませ。
今回の依頼
依頼ファイル名:ウジョニャウの怪
依頼人: 徳丸 一三夫(とくまる いさお)
島に一軒しかない秘湯の民宿の老主人。丸顔で小柄。釣りと料理の腕は確かで、話し好き。
妻の富子といっしょに民宿を切り盛りしている。娘と孫がいて島外に住んでいる。
依頼内容:
廃校となった小学校を取り壊そうとすると起こる祟りについて探ってほしい。
可能なら、祟りを鎮めてほしい。
期限:
3泊4日の滞在期間中。滞在中に解決できなければ未解決のまま依頼終了。
<旅程>
1日目:午後、島に到着。一休みして廃校に下見。
2日目:(自由行動)
3日目:(自由行動)
4日目:午前、島を発つ。
ガイドは1日目の午後。
舞台:
九州から飛行機で1時間のとある島。島の中心に小高い山があり、海沿いにはいくつかの集落がある。
近海ではカツオやイセエビなどが獲れ、農業、観光も盛ん。
そのほか:
持ち物は、そのキャラクターが手に入りそうなもの、旅行に持ってきていて不自然でないものであれば
とくに制限しません。
このシナリオにご参加のみなさんの立場はR&Rのエージェントですが、
調査への参加は強制ではないので、海で遊んだり、温泉に入ったり休暇を楽しんでも構いません。
R&R Agencyについて
R&R Agencyは、リンコ・ヘミングウェイと坂内 梨香が立ち上げた会社です。
事業内容は、オカルト事件の調査や解決。
依頼人の依頼に応じて、世界中どこにでもエージェントを派遣します。
フツウじゃないことに慣れた寝子島の人々こそ、こういう仕事に向いている、と
寝子島はシーサイドタウンの雑居ビルの一室に事務所を置くことにしました。
みなさんは、スカウトされたり噂を聞きつけたりして、基本的にはR&R Agencyと契約し、
R&R Agency社のエージェントとして事件や調査に取り組みます。
能力さえあれば、性別・年齢・種族は不問。
契約は1事件ごと。
報酬は前金+成功報酬で、成功すればそれなりの金額が貰えます。
必要経費は会社持ち。
エージェントになると今後は仕事の連絡が行ったり、事務所で仕事をみつけたりできます。
☆能力さえあれば過去は不問、戸籍等も気にしないので、ほしびとさんも雇います!
登場NPC
坂内 梨香:R&R Agencyの実質ボス。
寝子島高校を卒業してR&Rに専念する予定だが、現時点では春休みな学生さんでもある。
梨香の相棒、リンコ・ヘミングウェイはお留守番です。
それではご参加お待ちしております!