ぼくらのフツウをまもるため｜リアクション

ぼくらのフツウをまもるため

【黒い罠】

　いつのまにかカラスが増えている。
「おい、トムスター。カラスに喰われないようにしっかり……って、言ってる側から何やってんだ！」
「ホワ！？　ネコ、可愛いから撫でに行こうと思っただけなのデスよ！？」
　夜海霧楓は半黒豹の獣人になっていたが、やってることはいつもとあまり変わらなかった。つまり、トムスターことハムスターになったトワ・E・ライトフェロゥのお守もとい護衛である。
「……自分の格好考えろ。どう考えても一瞬で食われて終わりだろうが……」
「オー、残念です……。仕方ないので、トワ我慢するデス」
　がっかりしつつ、ハムスターになったトワは素直に楓の頭の上にちょこんと乗る。
「カエデ、あっちに人の気配がするマス！　トワと同じ迷子の人がいるかもデス！」
　トワが頭の上から、楓に指示を飛ばす。
「……わかったから、暴れるな。ずり落ちたら、腹を空かした猫どもに取って食われるぞ。ん、なんか犬もいるな」
　ふと気づくと、楓の足下に一匹のチワワがいた。
「おい、そこのお前、これはいったいどうことだ！？」
　チワワ――化神小次郎は、何やら激しく動揺した様子で、楓に状況の説明を求めた。
「……ん？　ああ、お前、神魂絡みの事件は初めてってクチか？」
「Oh!　それは大変デス！　楓、説明してあげるデス」
　頭の上のトワに指示を飛ばされるまでもなく、楓は神魂やら何やらをかいつまんで小次郎に説明してみせた。
「……そうか。なら、あたしも連れてけ。クローネ探しに、ろっこんで役に立ってみせるぜ」
「いいぜ。手数は多い方がいい」
　楓は頷き、トワと小次郎を連れて、人の気配のする方へ進んでいった。
　そして、三人は津止と彼を取り巻く者たちの姿を発見した。
「……なるほど。だったら、クローネは異世界の連中に任せて、残りの面々はさっさと森を出た方がいいかもな」
「……うん、私もそれがいいと思う。クローネが、また先生に悪さをしないとも限らないし……」
　楓の提案に、遠野まほろも頷いた。
「あ、だったら、あっちの方にテオの面倒を見てくれている人がいるから、一緒に連れていってあげてくれないかな」
『こんな感じの人です』
　桜庭円と小山内海の言葉（とスケッチブック）に、楓やまほろ、それに同行する志波武道、日暮ねむる、伊賀解理も頷いた。
「で、海ちゃん、私達は落とし穴に行こう」
『うん』
「あたしももちろんついて行くぜ！」
　そして、円、海、小次郎は落とし穴の中に入っていった。
「よし、俺達はテオくんを見つけて、さっさとここから脱出しようＺＥ☆」
「うん。そして、できるなら、少しでも早くテオをマザーミルの近くに連れて行こう。テオに神魂が戻ったとき、少しでも早く次の行動に移れるように」
　武道とねむるの言葉を合図に、一行は森の外へ脱出を開始した。

　　　†　†　†

　そして、誰もいなくなった落とし穴のすぐそばで、かさこそと何かが動く気配がした。
「……クローネさま。本当にこの穴の向こう側にいらっしゃるかしら？」
　それはクローネの友達を自称する少女――大天使天吏だった。
　天吏は、イヌワシの翼を背中から生やしていた。
　それは鳥を愛する彼女にとってはこのうえない喜びであったかもしれないが、今はそれよりもクローネの安否が気にかかった。
（マザーミルの方は弟に任せてあるとして、もしクローネさまが本当にこの向こうにいらっしゃるなら私が助けなくちゃ……）
　とはいえ、やみくもに突っ込むのも考え物だ。
　ひとしきり落とし穴の奥を覗きこみ、さてどうしたものか、天吏が考え込んだそのときだった。
　がさごそ、と彼女の背後で何かの気配がした。
「……っ」
　はっと後ろを振り返った天吏の目に映ったもの、それは――。

「……おお、かみ？」

　鋭い瞳を持つ、一匹の狼であった。
　天吏は思わず身構えた。
　食べられると思ったからだ。
　しかし、
「……グルル」
　狼は小さく唸り声を上げると、天吏を無視して、ひらりと落とし穴の中に飛び込んで行った。
「え？」
　そのことは、狼が姿を現したことそのものよりも天吏を驚かせた。
　というのも、まるでその狼が、クローネを追って、その落とし穴に飛び込んでいったかのような、そんな直感がしたからである。
「……躊躇している場合ではなさそうね」
　ぽつり、と呟くと天吏もまたごくりと喉を鳴らして、落とし穴の中に身を翻した。
　危険など顧みなかった。
　何故なら、クローネの願いこそが、天吏自身の願いにほからなないのだから。

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