【お花見】しづ心なく花の散るらむ｜リアクション

【お花見】しづ心なく花の散るらむ

●海浜公園、春の夢

　空は、透き通る青色で、
　風は、目に見えぬ緋の色で、
　舞う桜は、春色の音に乗る。

　声が聞こえるほうへ行ってみよう。人が多そうなところへ行ってみよう。
　きっと、楽しいところへ続いているはずだから。
　賑やかな声に引き寄せられるように、レント・イナホは浮かぶような足取りで寝子ヶ浜海浜公園へと向かっている。
　近づくたびに、レントの胸でワクワクが高鳴る。サイダーがぷしゅぷしゅとはじけるように。
「お花見イベントだなんて楽しそうですねぇ！」

　面白そうなイベントがあると聞き、この日レントは星幽塔から寝子島に遊びにきたのだった。トレードマークの猫耳は、フードでちょんと隠している。とはいえこの場所に来てわかったのだが、猫耳の飾りを頭に付けている人間はそれなりにいた。他にも浮かれてネクタイを頭に巻いたり、チョンマゲのカツラを被っている人もいたりするので、万が一フードが風にあおられ頭が露出したとしても、そう不安がる必要はなさそうだ。
　いま、レントが向かっているのは野外ステージだった。
　どうやらイベントがはじまったばかりらしい。どんな演し物があるのだろう？　

　今日はお花見、海浜公園に行く予定だ。
　行楽用の弁当に、乃木成美はただならぬ気合いを入れていた。つきあって間もない彼女に食べてもらうのだ。生半可なものにはしたくない。
　悩んだけれど春らしいチョイスとして、ちらし寿司を作ることにした。
　酢飯に桜でんぶを散らして花盛りを表現し、海苔と卵、人参を加えて見た目の華やかさをを出す。
　弁当を作りつつ、ビニールシートや緑茶の入った水筒とか、必要そうなものを手際よく詰めた。
　こうしてまとめて、彼女の家のドアフォンを押す。
「……うん、今日も鳴は綺麗で可愛いよ」
　この台詞は、段取りしたものじゃなくてその場で口を突いて出たものだ。
「いきなりそんなべた褒めだなんて……困っちゃうじゃない」
　と仲村渠鳴は頬を染めた。　
「……でも、ありがとう」
　ああもう！　と悶えそうになる自分を、成美は必死で取り繕った。かわいい、可愛すぎる。
「じゃあ行こうか」
「うん、海浜公園へ」
　そう、寝子ヶ浜海浜公園へ。

　まぶしいな、と天之川麗仁は目を細めた。
　陽差しがまぶしい。海から照り返されるきらきらした光も。
　でも一番まぶしいのはもしかしたら、春の盛りを花であらわす、公園中に咲く桜かもしれない。
「さて……」
　いつまでもまぶしがっていてはいられない、と麗仁はギターケースを背負い直した。
　麗仁は本日、ステージでアコースティックギターを披露するつもりなのだ。
　桜のまぶしさには及ばないかもしれないけれど、ギターの音色で客席に座る人たちを、まぶしく華やかな気分にできたら、いいな。