【お花見】しづ心なく花の散るらむ｜リアクション

【お花見】しづ心なく花の散るらむ

【回想】しづ心なく花の散るらむ

　もう冬の寒さはどこかへ行ってしまった。
　春の夜気は昼間のぬくもりを抱いたままで、桜と道と、その間を歩くふたりを優しく包み込んでくれる。
　ときおり車のヘッドライトに照らされ姿を見せるも、それ以外はずっと黒塗りのなかに埋もれており、夜の桜は早々と、休んでしまったかのように思えた。
「すっかり暗くなりましたね」
　言わねばならぬ台詞のように、五十嵐尚輝はつぶやいた。
　先に帰ってくれても――という彼の気づかいにあえて気づかぬふりをして時子は言う。
「先生はまた、学校に戻られるんですよね？」
「ええまあ……でも仕事ではないんですよ。昨夜から寝かせている実験用の化合物が、そろそろ仕上がった頃なので様子を見たくて」
　ですから、と申し訳なさそうに尚輝は言う。
「御巫さんはそろそろ……」
「でももう少しだけ。せめて学校まで、ご一緒していいですか？」
　でも、と口にしかけたとき、尚輝は次に言うべき言葉を忘れた。
「学校が……いえ、学校の桜が」
　しばらく、見とれたように立ち尽くしていた。
「ええ、ちょっとしたサプライズです。電飾……といっても、ソーラータイプのなので電気を引かずに光るんですけれどね。朝のうちに準備してみました。実を言うとライトアップを思いついたの、昨日の朝なんですよ」
「きれいです……本当に。でも、大変だったでしょう？　どうしてこんな」
「好きだから、です」
　まっすぐに時子は、尚輝を見上げていた。

「桜が好きだから、寝子島高校の。入学したときから桜の綺麗な学校だという印象が強くて。夜桜でも見てみたくて」
　寝子島高校、照らされる桜を背負うようにして、時子は尚輝に呼びかけた。
「だから、ね？　一緒にベンチに座って、眺めませんか？　ごめんなさい、わがままかもしれないけれど……」
　時子は無意識のうちに手を差しだしていた。
「わがままだなんて、そんなことはありません」
　吸い寄せられるように、尚輝はその手を取っていた。

　頃は春。
　桜の舞う、春。

　

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　ご参加ありがとうございました。
　大変大変、おまたせして申し訳ありませんでした。桂木京介です。

　皆様の思いが詰まったアクションに圧倒され、その思いに負けないよう夢中で書きました。
　同じ花見といっても、すべての人にそれぞれの物語があること、その一部とはいえ描く機会を頂けたことを光栄に思っています。

　さて本作のリアクションは普段の私の書き方とはちがい、ガイドで公開した【Ａ】～【Ｅ】の場面ごとに描き終えては次に移るという構成をとっています。
　しかもアルファベット順ではなく、
　【Ｃ】桜川
　【Ａ】自由にお花見
　【Ｄ】寝子島街道の桜並木
　【Ｂ】寝子ヶ浜海浜公園でお花見イベント
　【Ｅ】桜の精と小さな魔女たち
　という並び方で組んでみました。
　それぞれのパートではほぼ時間軸に沿って並べておりますが、一部前後しているところもあります。

　また、複数の場面に出るかた、構成上の都合で位置を入れ替えさせていただいたかたについては、【Ｂ】の描写の次にいきなり【Ｃ】の描写を挿入するなど変則的な描き方をしている部分もありますので、必ずしもこの限りではないということをご了承下さい。

　とっても長いリアクションになってしまったので、自分のキャラを探すだけでも一苦労だと思います……すいません。
　もちろん全部読む必要はありません。ご自身の登場シーンだけお読みいただければ内容はわかるように作ったつもりです。
　でも全部読んでしまったという酔狂な方……私は、そんなあなたが大好きです。

　ご意見ご感想を心からお待ち申し上げております。
　桂木京介でした。

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