荒野のウェスタン　～ネコジマ大陸は夕日に暮れて～｜リアクション

荒野のウェスタン　～ネコジマ大陸は夕日に暮れて～

■荒野の三枚目
　ウェスタンドアを潜る新田亮。
　バーとレストランが一緒になった店の雰囲気は、亮が想像していた通りのものだった。
　髭をたくわえた筋肉自慢の男たちが狭いテーブルで顔をつきあわせ、昼間から酒をあおっている。
　自分というよそ者へ集中する視線。
　亮は彼らの視線を無視してテーブルへとついた。
　とにかく喉が渇いた。
　メシも喰いたい。
　ウェイトレスが、『まず水を』という亮にグラスいっぱいの水を持ってきた。
　これでいい。
　酒もコーヒーも今は必要ない。煮沸された水のなんとありがたいことか。
　亮がグラスに手を伸ばそうとしたその瞬間。
　目の前でグラスが砕け散った。
　明後日の方向から打ち込まれた弾丸によってである。
「全員動くな！」
　顔半分を布で隠した男たちが拳銃を周囲に振り回し、一人がウェイトレスに銃を突きつけた。
「金を袋に詰めろ。誰も銃を抜くなよ」
　おびえるウェイトレス。
　うろたえる店主。
　客たちも自分の金品さえ奪われなければとばかりに息を潜めている。
　だがそんな中。
「俺は水が飲みたかっただけなのに」
　亮は立ち上がった。
「食べ物の恨み。いや、水の恨みは恐ろしいぞ！」
　振り向くと同時に既に抜かれた二丁拳銃。
　とてつもない速さで全段発射。
　あわをくった強盗たちは死を覚悟した……が、しかし。
「あたったか？」
「いや」
　互いに顔を見合わせて、気まずそうに肩をすくめた。
「……もういい」
　亮は銃を放り捨て、その場から跳躍した。
　強盗の銃弾が彼の居た場所を通り抜け、テーブルに置かれたコインを弾いて盲目のギタリストのカップへとホールインさせた。
　リクエストととってか激しいカントリーミュージックをかき鳴らす。
　亮の動きは止まらない。
　テーブルの上を飛び石のごとく渡った彼は強盗の一人に膝蹴り。
　気絶した彼の後ろに回り、別の強盗からの盾にするとそのまま相手に突っ込んだ。
　素早く繰り出されるパンチ。
　腹に突き刺さる拳に強盗が呻き、続けて繰り出されたアッパーカットで最後の強盗が天井に向かって飛んでいった。
「……ふう、弱すぎるぞ」
　手首を振り、ポケットからコインを数枚出して店のカウンターにおいて出て行く亮。
　そんな彼を。
「お待ちになってください！」
　ウェイトレスが走って追いかけてきた。
　店の外で立ち止まり、振りかえる亮。
「礼はいらないさ。俺はただ……」
　振り返った亮の鼻先に、彼の銃が差し出されていた。
「お忘れ物です」
「…………」
　黙って銃を受け取り、ホルスターに納める亮。
　そして沈黙のまま背を向け、歩き出す。
　暫くしてから、水も食料もとっていないことに気がついた。
「……今更、戻れないな」
　なんとも格好の付かない、荒野の亮である。

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