【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

一年二組
　鬼河内萌は俯いた姿で席に着いていた。ポニーテールに結ばれた大きなリボンが微かに震えている。
　萌はちらりと視線を上げた。
　教卓の前では桐島義弘が厳しい表情で学生の本分について語っていた。
　すぐに視線を下げた。萌は机の上で両手を合わせる。祈るような姿で目を閉じた。
　――絶対に桐島先生、機嫌が悪いよぉ。これってもしかしてボクのせいなのかな。期末テストは赤点だったけど、追試でがんばったよ？　進級もできるんだよ？　だから、怒ってるなんてことは、きっとないよね！
　目を開けた。八重歯を見せて笑う。明るい表情のまま、そっと顔を上げた。
「日頃の生活態度は成績にも反映されるものだ。私の担当は数学だが、それだけの話ではない」
　萌は涙目となった。再び頭を下げる。
　――絶対に怒ってるよぉ。一だよね。ボクの数学、一なんだよね。
　でも、体育は五かな。たぶん五だね！　社会もがんばったから、四は欲しい！
　心の中で徐々に気分を盛り上げていく。
「通知表を渡す。呼ばれた者は速やかに前へ出るように」
　萌の肩がピクッと反応した。浮上した気分は深く沈み、頭を抱えるようにして机に突っ伏した。
「鬼河内」
　呼ばれた萌は立ち上がった。凛々しい顔で教卓に向かう。
　――ボクは二年になる。一年よりも数学だって難しくなるはず。だから、ボクはこんなところで負けちゃいられない！
　萌は胸を張って宣言した。
「桐島先生、また勉強をよろしくお願いします」
「そうだな。その脳細胞の一つ一つに数式を刻み込むように教えるとしよう」
　冷やかな声と共に通知表が渡された。受け取った萌は不安そうな顔で席に戻っていく。
　――ボク、生きて高校を卒業できるのかなぁ？
　その数分後、萌は笑顔となった。通知表の受け渡しが続く中、隣り合った女子と新しいクラスに思いを馳せる。
「ボク、女の先生がいいかな。なんか優しそうだし」
「とか言って、また桐島先生が担任になったりして」
「え、そんなことってあるのかなぁ」
　ぎこちない笑みを浮かべた。
　――ボクがピンチ！
　何気ない女子の一言が、じわじわと萌を追い詰めるのだった。