【修了式】ラストスパートは華やかに｜リアクション

【修了式】ラストスパートは華やかに

【Ｅ】下校してから布団に入るまで
　すっきりとした顔で青山絢は演劇部を後にした。早足で歩いていると前方の一人に目がいった。
　――津止先生がいるわ。確か、吹奏楽部の顧問をしていたわね。
　距離が近づいた。無理なく声を掛けられる。
　――担任を無視して素通りは出来ないわ。一年六組とは今日で最後なのだから。
「先生、吹奏楽部の帰りですか」
「君か。珍しいところであったな」
　厳めしい顔で振り返る。絢は自然な笑みを浮かべた。
「演劇部に顔を出していました」
「演劇部か。製菓部と掛け持ちでもしているのか？」
「いえ、そのようなことはありません。バレンタインデーのチョコレートは、その、特別でした」
「特別なのか」
　孝道は深い考察を思わせる表情となった。絢は平静を装いながら胸中で慌てた。
　――特別じゃなくて特殊、とは言えないし。急いで話題を変えないと誤解されるかも。
「先生からいただいたキャンディは美味しかったです。上品な甘さと後味の良さが魅力ですね」
「ん、そうか。人気の洋菓子店らしい」
「そうなのですね。先生はまだお仕事ですか」
「そうだが。君は気を付けて帰りなさい」
　孝道は背中を向けた。歩きながら呟きが聞こえてきた。
「キャンディは正解か」
　孝道の表情は見えない。心なしか、声が弾んでいるように思えた。
　遠くなる背中に向かって絢は声を上げた。
「津止先生、一年間、ありがとうございました！」
　孝道は立ち止まった。顔だけを向けた。西日が当たってはっきりと見えない。その状態で軽く手を挙げて歩いていった。
「津止先生……」
　その場に驚いたような表情で佇む。
　――先生は笑っていたのですか？
　心の中、絢は西日に向かってそっと問い掛けた。